研究課題
液性排除因子の解析をおこなった。当初の計画では、タンパク質の解析を既寄生寄主体液より精製し解析する予定であったが、昨年度悩まされた野外の寄主昆虫の微胞子虫感染が九州を含め広範囲に拡大していることが判明したことから、従来の生化学的手法である大量の寄主体液を必要とする方法をやめ、健全虫を注意深く飼育し、培養多胚が分泌する成分の解析による方法に切り替えておこなった。タンパク質フリーのトビコバチ胚子用改変MGM培地を用いて寄主より摘出した多胚を培養し、培地中に分泌された成分を解析した。雌雄の多胚のtranscriptome解析をおこない、これにより得た発現遺伝子情報とを組み合わせ解析を進めた。攻撃能の性的差異で中心的な役割を果たすと想定されるdsxとカースト分化に直接的に関わる生殖細胞決定遺伝vasaについて、胚子発生の時期との関係を知るため、定量PCRにより発現動態を調べた。さらに精査が必要であったため、vasaのisoform ならびにvasaのvariant に関して塩基配列の解析を進めた。雌特異的に起こる環境ストレスによる兵隊幼虫の増員について、飼育温度、高温刺激などの環境要因が兵隊幼虫の増員を引き起こすことを実証した研究成果の論文2報を投稿た。野外において高頻度で見られる雌成虫が寄主卵に雌雄2卵を産む現象について、内婚と外婚の選択制を明らかにするために使用するマイクロサテライトを選定した。また、この現象の雄の立場からの意味に関する理論研究の成果について投稿論文を作成した。
2: おおむね順調に進展している
微胞子虫の感染対策のため、予定の大量サンプルを要する液性排除因子の研究方法の変更等、計画外の問題が生じた。しかし、培養手法を利用した方法を確立、この方法に変更したことで回避できる目途がたち、すでに多胚が培養液中に分泌するタンパク質を確認した。兵隊幼虫の性的に異なる増員研究では、米国の先行研究では不十分なことが判明した。このことから、生殖細胞決定因子をisomerのレベルで解析する必要が生じたが、分子解析はほぼ完了した。mixed-sex broodの存在理由の研究では、内婚と外婚の関係の実証実験が微胞子虫感染対策により遅れたが、理論研究は計画を上回る進捗が見られた。研究発表が低調であったが、論文投稿等は着実に進むなど、全体を通しておおむね順調な進捗といえる。
トランスクリプトーム解析による雌雄の胚子の発現遺伝子比較のデータが揃ってきたので、この解析を進め、液性排除因子候補タンパク質のアミノ酸解析等、他の実験結果による情報と合わせていく。解析に当たっては、連携研究者の坊農氏の協力を得て行なう予定である。雌雄同時寄生の意味の解明については、マイクロサテライトを用いた解析ならびに理論解析を進める。微胞子虫の感染対策は今後も想定されるが、今年度、対策を講じ、対処法を確立したので、大量サンプルの扱いは避け、それ以外方法で実験は問題なく行えるものと思われる。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
BMC Genomics
巻: 18 ページ: 83
10.1186/s12864-016-3455-y