研究課題
本研究課題においては、イネの高温・高CO2応答の学術的理解を進め、高温・高CO2環境に適応するイネ品種の作出技術を確立することを目的とする。平成28年度は下記の研究を行った。1)高温環境下における白濁米粒の発生メカニズムの解明:酒米の白濁化メカニズムを探るため、酒米の平温心白と高温白濁部の澱粉構造を比較解析したところ、アミロース・アミロペクチン構造に大きな相違点が見いだされ、それぞれの白濁化メカニズムが異なることが明らかになった。米粒の白濁・胴割れ米粒発生メカニズムにおけるプラスチドゲノムの関与の有無を検証するため、高温登熟性の異なるイネ系統から高純度のプラスチドゲノムDNAを調製し、配列解析を試みた。その結果、プラスチドゲノム間にDNA配列の違いを見いだすことができなかった。2)高CO2環境下における白濁米粒の発生メカニズムの解明:刈羽村先端農業バイオ研究センターに設備されている人工光・CO2濃度制御型閉鎖温室を用いて、イネの穂ばらみ・開花・登熟・成熟期における高CO2感受性を調べたところ、開花後のCO2感受性が高いことが分かった。そして、高CO2と強光といった複合ストレスがより品質低下を引き起こすことが明らかになった。また、メタボロームから高CO2は主要代謝に影響を及ぼすことが示された。3)高温・高CO2登熟耐性に関連する遺伝子の単離・同定:高温登熟性優良品種「ゆきん子舞」の解析からスーパーオキシドジスムターゼMSD1が高温登熟性に関与することが明らかになったことから、本年度は、MSD1によって生ずるH2O2の役割を追求した。低濃度(10μM)H2O2プライミングがイネやシロイヌナズナの高温耐性を誘導することを見いだした。また、H2O2プライミングが様々なホルモンシグナル応答系に変化をもたらすことが分かった。
2: おおむね順調に進展している
酒米の平温心白と高温白濁部の澱粉構造に相違点が見いだされ、それぞれの白濁化メカニズムが異なることが明らかになった。また、低濃度(10μM)H2O2プライミングがイネやシロイヌナズナの高温耐性を誘導することを見いだした。したがって、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断される。
研究計画通りに着実に研究を進める。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 1件)
Plant and Cell Physiology
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