研究実績の概要 |
昨年度までに、主に糸状菌Aspergillus nidulansの一酸化窒素(NO)耐性に関わる新規遺伝子の発見について報告した。本年度は、主にsirtuinがかかわる代謝制御についての研究を進めた。Sirutinは多様な遺伝子の発現をエピジェネティックに抑制し、多様な代謝を制御することがわかっているが、糸状菌のsirtuinの機能については、二次代謝系遺伝子の一部を制御することがわかっている以外、不明である。本研究では、A. nidulansのsirtuin E (SirE) が定常期に発現し、核に局在することを明らかとした。また、sirE遺伝子破壊株 (DSirE株) では対数増殖期と定常期にヒストンH3の56番目のリジン残基の、定常期にヒストンH3の9および18番目のリジン残基のアセチル化レベルが上昇した。 さらに、DSirE株ではキチナーゼ等の自己溶菌関連酵素の遺伝子発現や活性が低下し、自己溶菌が阻害されるとともに、分生子形成やステリグマトシスチンの生合成といった培養後期に起こる代謝が転写レベルで抑制されることを見出した。一方、DSirE株では野生株に比べ、一次代謝系(炭素・窒素代謝および細胞壁の合成)に関与する遺伝子の発現が上昇していた。このうち、beta-1,3-glucan synthase agsB遺伝子のプロモーター領域、解糖系遺伝子pfkAおよびAN5210のプロモーター領域のヒストンは、SirEによって脱アセチル化され、その遺伝子発現が抑制されていたことから、SirEの直接の制御下にあると考えられた。以上の結果は、生育期に応答して、ヒストンをアセチル化レベルを制御することによって細胞代謝を制御する新たな転写因子であると考えられた。
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