研究課題
カビの環境応答として重要な一酸化窒素耐性化の機構解明については、前年度までに引き続き、スクリーニングによって得られたAspergillus nidulansのアミノ酸生合成系遺伝子およびその発現調節についての生化学的解析を進めた。一方、A. nidulansの二次代謝系の発現を網羅的に調節するSirtuinについて以下の成果が得られた。既にA. nidulansが5つのsirtuinを有することを見出し、このうちのSirAがNAD+依存的にヒストンH4の16番目のアセチルリジン残基を脱アセチル化することによってステリグマトシスチンおよびペニシリンGの生合成遺伝子の発現を抑制することを見出してきた。また、SirEが定常期に一次代謝遺伝子の発現を抑制し、自己溶菌や胞子形成の代謝を増強することも見出した。本年度の研究によって、本菌の他のsirtuinタンパク質をコードするAN1782 (sirC) およびAN11873 (sirD) に対応する組換えタンパク質を作製し、これらがヒストンH4のLys 16とヒストンH3のLys 9およびLys 18のアセチル化修飾を脱アセチル化するsirtuin活性を有することが示された。sirCおよびsirDの遺伝子破壊株では、ヒストンH3のLys 9,Lys 18およびLys 56のアセチル化レベルが野生株のそれらよりも増加していたことから、SirCとSirDがこれらの3つのアセチルリジン残基を脱アセチル化する機能を持つことが明らかとなった。また、これらの遺伝子破壊株では,オースチノール (AUS) 、デヒドロAUSおよびSTの生産量が野生株よりも多かった。以上の結果から、SirCおよびSirDがヒストンの脱アセチル化を介してAUS,デヒドロAUS,STの生合成を抑制していることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
これまでに見出した一酸化窒素耐性遺伝子の機能についての生化学的研究を行い、現在も継続して詳細な解析を進めている。また、一酸化窒素感受性変異株の遺伝学的解析と次世代シーケンサーでのゲノム解読は遅れていたが、目的変異株の交配実験に目途が立ち次年度以降に、インフォマティクス解析と実証試験によって一酸化窒素感受性遺伝子の特定と機能解析を開始できる状況となった。もう一方の課題である二次代謝のエピジェネティック制御については、サーチュインアイソザイム遺伝子の遺伝子破壊株の作製を終え、5つのアイソザイムのうちSirA、SirE、SirC、SirDの4つについての詳細を解析することができた。これは、概ね計画どおりである。
既に見出した一酸化窒素耐性遺伝子については、今後は、アミノ酸生合成関連の遺伝子および一酸化窒素によって強く発現誘導されるシトクロムP450遺伝子にフォーカスして、生合成および発現調節についての解析を進める予定である。古典的手法によって獲得した一酸化窒素感受性の変異株の解析については、上記の通りインフォマティクス解析と候補遺伝子の選抜を行い、新規の一酸化窒素耐性化遺伝子を発見する計画である。二次代謝のエピジェネティック制御については、詳細の解析が進んでいない残された1つのアイソザイムであるSirEに関する研究を進める。また、作製したサーチュインアイソザイム遺伝子の遺伝子破壊株の二次代謝能の解析やクロマチンの生化学・分子生物学的解析を引き続き行い、分子機構の詳細を解明する。
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