研究課題
dnBMAL1マウスの行動学的解析の結果、海馬を必要とする記憶課題に共通してdnBMAL1マウスはZT10(明期開始10時間後)付近において一貫して記憶想起効率の低下を示すことが明らかとなった。そこで、海馬が時間帯依存的な記憶想起制御に関わるかを明らかにするため、アデノ随伴ウイルスを用いてdnBMAL1を海馬特異的に発現させてその効果を解析した。その結果、dnBMAL1を海馬において発現させた場合にもdnBMAL1マウスと同様に、ZT10付近において記憶想起効率の顕著な低下が観察され、海馬時計機能が記憶想起を制御することが強く示唆された。さらに、dnBMAL1マウス海馬ではcAMP濃度の低下が観察された結果から、前年度に引き続き、薬理遺伝学的解析 (pharmacogenetics) を用いて、cAMP濃度増加を導くロリプラムを用いてdnBMAL1マウスにおける想起障害の改善を試みた。前年度の解析結果ではロリプラムの全身投与によりdnBMAL1マウスの記憶想起障害の改善が観察されたため、今年度は、ロリプラムを海馬あるいは前頭前野に直接投与した影響を解析した。その結果、海馬に投与した場合には全身投与と同様にdnBMAL1マウスの記憶想起障害が改善された。一方、前頭前野に対する投与では改善は認められなかった。従って、ウイルス実験の結果に一致して、海馬の時計機能が記憶想起を制御すること、さらに、cAMP情報伝達経路を介して記憶想起が制御される分子基盤の存在が示唆された。また、dnBMAL1マウス海馬のトランスクリプトーム解析の結果でも、予想されていた時計遺伝子群の発現異常が観察された。さらに、脳搭載型蛍光顕微鏡を用いたGCaMP6による海馬CA1ニューロンのカルシウムイメージング手法のセットアップを進め、イメージングに適したGCaMP発現ウイルスの調整を行った。
3: やや遅れている
平成29年3月までに、CRESTコンディショナルマウスの行動学的解析、GCaMPを用いたdnBMAL1マウス海馬CA1のカルシウムイメージング、dnBMAL1マウスのトランスクリプトーム解析を行う予定であった。しかし、CRESTコンディショナル変異マウスの解析ではEmx-creマウスを用いた解析では予想された表現型が観察できなかったため、種々のウイルスを作製し、コンディショナル変異誘導の必要性がでてきた。また、GCaMPによるカルシウムイメージングでは当初用いたAAV9の発現量が高すぎて、イメージングには適していなかったので、他のAAVを検討することにした。そこで、トランスクリプトーム解析をH29年3月に開始することとして、1,2月はウイルス作製に専念することとにしたたため、研究の遅れがでた。
Gene Set Enrichment Analysis (GSEA)等のGene ontology解析も交えて、次世代シークエンサーを用いたトランスクリプトーム解析を強化して、dnBMAL1マウス海馬において異常を示す細胞内情報伝達経路を同定する。さらに、この情報伝達経路の標的となる因子群の解析も進める。脳搭載型蛍光顕微鏡を用いてGCaMPによるカルシウムイメージングを実用化して、社会記憶想起時の海馬ニューロンの活性変動を重点的に解析する。転写因子CRESTのコンディショナル変異マウスの解析を強化して、CRESTとBMAL1との関係性を解明する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (30件) (うち国際学会 9件、 招待講演 6件) 備考 (1件)
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