研究課題/領域番号 |
15H02489
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
川崎 努 近畿大学, 農学部, 教授 (90283936)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 植物免疫 / 受容体 / RLCK / MAPKKK / MAPK |
研究実績の概要 |
植物の細胞膜上に存在する受容体が、病原菌の侵入を認識すると、その情報を細胞内に伝達し、様々な防御応答が誘導される。その際、細胞内の信号伝達系においてMAPキナーゼカスケードが重要な役割を果たしていることが知られている。これまでの研究により、真菌の構成成分であるキチンの認識に伴い、細胞膜に存在する受容体型キナーゼCERK1が、受容体型細胞質キナーゼであるPBL27をリン酸化し、PBL27がMAPキナーゼカスケードの最上流にあるMAPKKK5をリン酸化することで、MAPキナーゼカスケードが活性化されることが明らかになった。しかし、植物ではMAPKKKがどのように活性化されているかについては不明である。酵母Two Hybrid法を用いた解析により、MAPKKK5のキナーゼドメイン間で結合することが明らかになり、MAPKKK5がダイマーを形成する可能性が示唆された。さらに、BiFC解析により、実際にMAPKKK5が細胞内でダイマーを形成し、そのダイマー化は細胞膜上で起こっていることが明らかになった。また、キナーゼドメインが相互作用することから、トランスリン酸化が生じている可能性が考えられた。実際、in vitro系を用いた解析により、キナーゼドメイン間でトランスリン酸化が生じ、質量分析計を用いた解析により6個のアミノ酸残基がリン酸化されることが明らかになった。さらに、それらのアミノ酸残基をアラニンに置換した変異タンパク質を用いたリン酸化解析により、これらのアミノ酸残基が実際にダイマー化によりリン酸化されていることを確認した。このことから、植物のMAPKKKの活性化が、ダイマー化・トランスリン酸化により制御されている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の過程で、MAPKKK5のキナーゼドメインを介して、細胞膜上でダイマーを形成することが明らかになった。さらに、ダイマー化に伴い、トランスリン酸化が生じることを明らかにし、リン酸化されるアミノ酸残基を特定することに成功した。これまでに植物のMAPKKKの活性化に関しては全く明らかになっていないが、MAPKKKのダイマー・トランスリン酸化が、活性制御に関与している可能性が見出された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果により、RLCKファミリーのタンパク質がキチン受容体とMAPKKKを結ぶ分子であることを明らかにし、その詳細な分子機構を解明してきた。しかし、他の受容体において、同様な信号伝達機構が存在しているかについては明らかになっていない。そこで、病原細菌の鞭毛タンパク質由来のペプチドflg22を認識する受容体FLS2が、リガンド認識に伴ってMAPKカスケードを活性化する過程において、同様なシグナル伝達経路が働いているかについて解析を行う。これまでに、flg22に応答して発現が変化する4種のシロイヌナズナのMAPKKKを同定し、それらについてT-DNA挿入によるノックアウト系統を作出した。そこで、それらの系統を用いて、flg22認識に伴ってMAPKを活性化するMAPKKKを同定するとともに、細胞内局在を解析する。さらに、FLS2の下流で働くと推定しているRLCKについても、ノックアウト変異体を解析し、MAPKの活性化を解析する。本解析の結果、flg22信号伝達で働くRLCKとMAPKKKが同定された場合は、それらの細胞内相互作用を解析する。 昨年度までの解析により、MAPKKK5のダイマー形成に伴うトランスリン酸化が、MAPKKK5の活性化に重要であることが示された。そこで、このダイマー化がMAPKKK5に限ったものではなく、植物に共通したMAPKKKの活性化機構であることを明らかにするために、シロイヌナズナの80個のMAPKKKのうち、MEKKファミリーに属する21個のMAPKKKのキナーゼドメインを単離し、酵母Two Hybrid法を用いてダイマー形成を解析する。併せて、ヘテロダイマーの形成についても、解析する。さらに、同様な解析をイネのMAPKKKについても行うことにより、植物のMAPKKKの活性化機構を解明する。
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