研究課題
本研究においては、AD発症リスクに影響を与える遺伝学的・環境因子が、Aβ蓄積からtau蓄積、脳内炎症性反応から神経細胞変性というAD発症のセントラルパスウェイに対してもたらす分子病態を解明し、そのメカニズムに基づいた、個々人に対する最適化先制医療法の開発を最終目標として研究を進めている。当該年度においては前年度までに交配を行っていたPICALMノックアウトマウスとAβを蓄積するAPPノックインマウスとのコンジェニックマウスについての解析を行い、実際にアミロイド斑の蓄積が低下することを確認した。またBIN1によるβセクレターゼ活性制御メカニズムとして、直接BIN1がBACE1に相互作用し、エンドソームからリソソームへの輸送経路を介在していることを明らかとした。一方、前年度までに見出したAβ分解酵素KLK7ノックアウトマウスとの交配により有意にアミロイド斑蓄積が上昇することを確認した。KLK7の発現制御メカニズムについてさらに検討を行い、アストロサイトにおけるKLK7発現はAβによって惹起される炎症反応によって上昇することを見出した。またその制御機構にはグルタミン酸受容体の関与が示唆され、アストロサイトにおける新たなAβ量制御機構の存在を明らかとした。また前年度に開始したCRISPRスクリーニング、化合物スクリーニングにより、Aβ分解活性を制御する複数の自然免疫関連遺伝子群や炎症性脂質メディエーターを同定した。後者についてはその下流シグナルとして複数のGPCRを見出したことから、新たな創薬標的基点分子の可能性を今後モデルマウスを利用して検討する。さらにCas9マウスを用いたゲノム編集技術としてレンチウイルスによるgRNA導入法を確立し、内因性タンパク質の発現を発生終了後に消失せしめることに成功した。
2: おおむね順調に進展している
当該年度においては遺伝学的AD発症リスク因子に関するADモデルマウスとの交配の解析に関して成果をまとめた。またレンチウイルスとCRISPR/Cas9システムを用いたin vivoゲノム改変技術が確立できたことから、今後他のリスク因子に関する解析を迅速に進めていくことが可能となった。同時に、グリア細胞に関連したリスク遺伝子のうちノックアウトマウスが入手可能なものについては解析を開始しつつある。さらに前年度までに確立したin vitroモデルを利用した遺伝子・化合物スクリーニングを行い、アストロサイトにおけるグルタミン酸受容体、及びGPCRを介したシグナル経路がAβ分解システムの制御メカニズムであることを見出した。グリア細胞を標的とした創薬はこれまでにほとんど進められておらず、新たなADリスクを修飾する制御薬の開発につなげる端緒となる可能性が期待される。
これまで研究成果から遺伝学的AD発症リスク因子のうち小胞輸送に関わる分子がAD発症セントラルパスウェイにおいて特にAβ濃度調節に関わっていることを示すことができた。と同時にスクリーニングの成果から自然免疫や炎症など、グリア細胞の寄与が改めて浮き彫りとなってきた。そして当該年度までの研究を進めていくなかでグリア細胞に関する研究手法(in vivo、in vitroともに)が確立できてきたことから、リスク因子の中でもグリア細胞に関連した分子に注目しながら、Aβ濃度亢進後に引き続くと考えられるtau蓄積・伝播、脳内炎症から神経変性・細胞死についても検討を進め、AD発症リスク因子が病的プロセスに与える影響について更に検討をすすめる。一方、Aβ濃度を制御する分子機構として新たに見出した自然免疫系やGPCRシグナルについては低分子化合物や抗体、もしくは中分子化合物を利用してADに対する治療、予防薬開発につなげていくことを考えている。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 3件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 8件) 学会発表 (30件) (うち国際学会 9件、 招待講演 8件) 備考 (1件)
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