本研究においては、AD発症リスクに影響を与える遺伝学的・環境因子が、Aβ蓄積からtau蓄積、脳内炎症性反応から神経細胞変性というAD発症のセントラルパスウェイに対してもたらす分子病態を解明し、そのメカニズムに基づいた、個々人に対する最適化先制医療法の開発を最終目標として研究を進めてきた。当該年度においてはADリスク因子であるBIN1がtau病態の伝播に与える影響を検討し、神経細胞におけるBIN1の発現量上昇によってtau蓄積病態が誘導されることを見出した。したがってBIN1はAD患者脳においてAβ産生のみならず、tau蓄積病態伝播にも影響している、重要なADリスク因子である可能性が考えられた。また申請者が独自に見出したアストロサイトにおけるAD発症関連因子KLK7については、グルタミン酸受容体アンタゴニストであるメマンチンがそのmRNA発現量を上昇させることを見出し、KLK7プロモーターの上流250bp以内にメマンチン応答性を決定する転写制御領域が存在することを見出した。そして脳内においてミクログリア特異的に発現するAD発症リスク修飾因子の一つINPP5Dについては、このINPP5Dが介在するシグナルの受容体としてTREM2/DAP12ヘテロマーが知られている。そこでDAP12ノックアウトマウスとAPPノックインマウスを交配して解析した結果、DAP12シグナル抑制によってアミロイド蓄積に対するミクログリアの集積が失われることが明らかとなった。さらにINPP5D+/-;DAP12-/-マウス(INPP5Dノックアウトマウスは出生後致死のためアミロイド蓄積への影響は検討できない)により、その集積が若干回復したことから、DAP12-INPP5D経路はアミロイド蓄積に対するミクログリアの遊走性を決定しているシグナルであると考えられた。
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