研究課題
Bach2のヘムによる制御機構については、構造と結合因子の観点から研究を進めた。Bach2のヘム結合領域について質量分析計を用いた表面荷電状態の測定を進め、同領域は天然変性状態にあること、ヘム結合により特定の二次構造が誘導されることはなく、ヘム結合時でも天然変性状態にあることを確認した。しかし、この天然変性状態はヘムの有無で状態が明確に異なることも見いだした。この天然変性状態のヘムによる構造制御について、その生理的意義を明らかにするために、ヘム依存性に天然変性領域に結合する因子について、定量的解析を行い、解離定数などを決定した。ヘムが両者の結合を大きく変える事から、Bach2の天然変性領域はヘム結合時には特定の構造(ただし大きく揺らぐ)をとり、タンパク質間相互作用が変化することが考えられた。これまで知られているヘム結合タンパク質は安定な二次構造を介した結合であるが、Bach2の場合にはヘムがその天然変性領域に直接結合して天然変性状態を調節するという、全く新しい概念を提唱することができた。鉄欠乏応答におけるBach1の役割については、MEL細胞を用いたChIP-sequenceの結果から、Bach1はこれまで解明してきた転写抑制作用に加え、転写活性化作用も有することを見いだした。さらに、Bach1は赤血球分化に必須とされる転写因子遺伝子の発現を鉄欠乏時に維持することを見いだした。マクロファージにおける機能については、Bach1 floxedマウスの作製を進め、neoマーカーを取り除いたマウスを得た。現在、細胞特異的Cre発現マウスとの交配を進めている。Bach2についてはマクロファージ特異的ノックアウトを得、組織マクロファージの分化や機能の異常について詳細に調べつつある。
2: おおむね順調に進展している
特によく進んだ点は、ヘムによるBach2の構造制御であった。これまでのヘム結合タンパク質は、全て安定な二次構造(αヘリクスやβシート)を介してヘムを結合している。一方、Bach2の場合、ヘムはBach2の天然変性領域に結合すること、そしてヘム結合が特定の二次構造を誘導することはなく、ヘム結合時においても天然変性状態にあることを、原理が異なるいくつかの測定方法により確定することができた。しかも、ヘム有る無しで天然変性状態のあり方(揺らぎの程度とも言えるかも知れない)が変化することも示すことができた。これは大きな進歩と考えている。このようなヘムによる天然変性状態の制御機構は、これまでにない全く新しい概念と言える。しかし次の大問題は、このような制御機構の生理的意義となる。この点についても、以前の研究で同定していたBach2天然変性領域結合因子が、ヘムに依存してBach2に結合することを確定することができたことは、もう一つ大きな進展だったと考える。なぜなら、この知見も、ヘム有る無しで天然変性状態のあり方が変化するというコンセプトを強く支持するものであり、さらに、この結合因子がヘム天然変性状態制御のアウトプットをつくり出している可能性もある。今後は、この因子の生理的意義、そしてその役割とBach2やヘムとの関係を探ることで、ヘムによるBach2の制御に関して、完結を目指して行く。
Bach2天然変性領域結合因子はタンパク質リン酸化酵素であることから、天然変性領域のリン酸化が同因子により行われ、これがヘムにより制御される可能性を追求していく。既にリン酸化酵素の組み換え体を得ているので、試験管内リン酸化反応を行い、質量分析計を用いてリン酸化部位を特定する。この際、安定同位体を用いてヘムの有る無しでリン酸化程度が変化する部位を特定する。このような部位を特定することができた場合には、この部位に変異を導入し、リン酸化欠失型やリン酸化ミミック型のBach2をつくる。これらBach2をBリンパ球等に導入し、その制御能の変化を調べることで、ヘムによるBach2天然変性状態制御の生理的意義を解明していく。鉄欠乏性貧血におけるBach1の役割についても、このリン酸化酵素に着目して研究全体を見直してみたい。Bach1のヘム結合部位も天然変性状態にあることから、Bach1もこのリン酸化酵素とヘム依存的に結合する可能性がある。この点を重点的に調べる。さらに、Bach1が転写活性化に作用する可能性を見いだしているので、このリン酸化によりBach1の転写抑制能と活性化能がスイッチする可能性も探る。並行してBach1複合体解析をMEL細胞で実施し、転写活性化関連因子との相互作用を調べる。充足率で研究実施を見送っていたヘムシグナル測定系については、Bach2とリン酸化酵素を用いて作成できそうか、状況を見ながら判断していきたい。Bach1およびBach2ノックアウトマウスにおける鉄代謝変化やマクロファージ機能変化については、計画通り検討を進めていく。
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