研究課題/領域番号 |
15H02507
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山本 雅之 東北大学, 医学系研究科, 教授 (50166823)
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研究分担者 |
鈴木 未来子 東北大学, 医学系研究科, 講師 (80508309)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 白血病 / 染色体転座 / EVI1 / GATA2 / エンハンサー |
研究実績の概要 |
染色体転座や逆位などの染色体異常は、切断点の周辺に遺伝子異常を引き起こすことによって、白血病などの疾患を誘発する。転座や逆位によって、がん遺伝子と別の遺伝子の制御領域とが融合し、がん遺伝子が本来とは異なる発現様式を示すために、白血病発症に至る場合がある。3番染色体転座および逆位はその代表例であり、3q21に存在するGATA2遺伝子エンハンサーがEVI1遺伝子の発現を活性化することによって白血病を発症させる。またその一方で、GATA2遺伝子は自身のエンハンサーを失うために、発現が低下する。28年度までに、逆位によるEVI1遺伝子発現を再現するモデルマウス(3q21q26マウス、GATA2遺伝子の発現は低下していない)とGATA2遺伝子ヘテロ欠失マウス(Gata2+/-マウス)を交配させることによって得られた3q21q26::Gata2+/-マウスを用いた解析を行い、GATA2遺伝子の発現低下によって、白血病の発症が早まることを明らかにしている。29年度は、3q21q26マウスおよび3q21q26::Gata2+/-マウスにおいて、白血病幹細胞を含む画分を同定した。白血病幹細胞は、どちらのマウスにおいても骨髄内のB220+c-Kit+画分に濃縮されていた。しかしながら、3q21q26マウスのB220+c-Kit+細胞は骨髄球系への分化能を有しているのに対して、3q21q26::Gata2+/-マウスのB220+c-Kit+細胞では骨髄球への分化能が失われており、細胞増殖が活性化していた。3q21q26マウスおよび3q21q26::Gata2+/-マウスのB220+c-Kit+細胞を用いてRNA-seq解析を行なったところ、GATA2遺伝子の発現低下によって、エネルギー代謝が変化することを示唆する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度は、3番染色体転座および逆位を伴う白血病のEVI1遺伝子高発現とGATA2遺伝子発現低下の両方を再現するマウスにおいて、白血病幹細胞を含む画分を同定し、その性質を解析することができた。その結果、GATA2遺伝子の発現低下によって、白血病幹細胞の骨髄球への分化が抑制され、さらに増殖が促進されたことから、GATA2遺伝子発現低下が白血病の悪性化に繋がることが示された。29年度までの実験結果から、3番染色体転座および逆位を伴う白血病における白血病の悪性化メカニズムの一端が明らかとなったといえる。またこの成果を論文としてBlood誌に発表した。これらのことから、「おおむね順調に進展している」とした。3q21q26マウスおよび3q21q26::Gata2+/-マウスの白血病幹細胞を詳細に同定することを優先したため、白血病幹細胞におけるEVI1遺伝子制御機構の解析が終了していないので、これは次年度に行う。
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今後の研究の推進方策 |
30年度は、29年度に同定した3q21q26マウスと3q21q26::Gata2+/-マウスの白血病幹細胞の性質をさらに詳細に解析する。29年度に両マウスの白血病幹細胞画分を用いてRNA-seq解析を行い、エネルギー代謝や分化に関わる遺伝子発現の違いを見出している。この結果を元に解析を進め、白血病の悪性化に関わる性質の違いを明らかにする。また、その性質の違いをもとに、白血病の悪性化を抑制する新規の治療法を検討する。3番染色体転座・逆位を伴うヒト白血病では、従来の化学治療に対する抵抗性がみられる。白血病幹細胞の性質解析からこの化学治療抵抗性の分子基盤を明らかにし、それに対する治療を検討する。さらに29年度に行えなかった白血病幹細胞におけるEVI1遺伝子の制御機構の解析を行う。
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