神経障害性疼痛はモルヒネも著効しない慢性疼痛で,その慢性化機序は依然不明で特効薬もない。代表者は,同疼痛モデル動物を用いて脊髄ミクログリアが痛みの発症に重要であることを示してきた。現在,脊髄でのミクログリアは疼痛発症期に相関した即時的な活性化を示すと理解されている。本研究では,疼痛の慢性期から活性化し始める新しいタイプのミクログリア細胞群(CD11c陽性)の神経障害性疼痛における役割を解明するため,H30年度は以下の項目を検討した。 項目3 CD11c陽性ミクログリアの神経障害性疼痛における役割 <2> CD11c陽性ミクログリア細胞発現分子を標的にする:前年度に引き続き,神経障害性疼痛におけるCD11c陽性ミクログリア発現分子の役割を検討し,X遺伝子欠損マウスの脊髄後角において,神経損傷後に出現するCD11c強陽性ミクログリアの細胞数が有意に減少することを明らかにした。また,CD11c陽性ミクログリア選択的な転写因子(以降「Y」と表記する)遺伝子欠損マウスを作製し,CD11c陽性ミクログリアの出現および神経障害性疼痛の慢性過程を検討したところ,Y欠損マウスにおいて神経障害性疼痛の回復が有意に遅延した。また,脊髄後角のCD11c強陽性ミクログリアの数がY欠損マウスで有意に少なかった。 項目4 CD11c陽性ミクログリアの異種細胞種間構造・機能的相互作用 CD11c陽性ミクログリアの三次元電顕観察を行い,神経損傷側のCD11c陽性ミクログリア1細胞当たりの貪食ポイントが多数観察された。さらに,損傷した一次求心性神経線維を蛍光標識し,蛍光物質を含んでいるミクログリアを解析したところ,CD11c陽性ミクログリアで蛍光物質を含んでいる割合が高かった。これらの結果から,同ミクログリアサブセットが高い貪食能を有している可能性が示唆された。
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