研究課題
ヒト共生生命体である腸内細菌が、健康長寿や慢性免疫疾患の病態にとって極めて重要な「臓器」として注目を集め、健康人の糞便を移植する治療まで行なわれるようになってきた。また、世界一の長寿国家である日本が誇る“日本食”が、日本人独自の腸内細菌叢を構築していることも知られており、申請者のグループは日本人に適合した最初の糞便微生物移植開発の臨床試験を開始している。本研究課題では、我が国で急増する免疫難病•炎症性腸疾患における腸内細菌叢の役割を、ヒト疾患糞便を無菌マウスに移植する“ヒト糞便化マウス”というユニークな手法により解明する。日本人初の糞便微生物移植を実施したグループとして、本“ヒト糞便化マウス”モデルを用いて、腸内細菌叢形成、既存腸内細菌によるcolonization resistanceのメカニズムを明らかにし、より効率の優れたヒト糞便微生物移植法の確立を目指す。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は、善玉菌、悪玉菌のライブラリーを作製するにあたり、独創的なモデルを確立した。すなわち、潰瘍性大腸炎(UC)に原発性硬化性胆管炎(PSC)を合併した患者に焦点を当てた。その背景に、腸管での腸内細菌 の悪玉菌/善玉菌バランスの乱れ(dysbiosis)が結果として、腸管外で表現系(肝臓胆管障害)を有するモデルとして最適であることに着目した。まず、無菌マウスの腸管内へUC+PSC合併患者糞便を移植した。コントロールとして健常人糞便を同様に移植した。結果、UC+PSC糞便移植マウスでは肝臓内にIL-17陽性のTh17細胞が著明に増加することを見出した。UCの日常臨床において治療難治の患者に対して、メトロニダゾール(商品名;フラジール)をしばしば用いるが、メトロニダゾール投与後の糞便を移植したマウスでは肝臓内Th17細胞が著明に健常人糞便移植マウスレベルまで減少することを見出した。したがって、メトロニダゾール投与前後の糞便を詳細に検討することで、ヒト疾患に直接関与する悪玉菌の同定に格好のモデルを確立した。現在、メトロニダゾール投与前後の糞便をさまざまな嫌気性培養条件にて培養を試み、さまざまなコロニーをバンキングしている。前後でのサブトラクションにて、肝臓内Th17細胞誘導悪玉菌の同定を行なっている。また、もう一つの仮説として、肝臓内Th17細胞誘導悪玉菌は腸管外の肝臓へ移行するという仮説を立て、UC+PSC糞便移植マウスの肝臓を無菌的に採取し嫌気性培養を試みている。この他、付随する発見として、UC+PSC合併患者糞便細菌にはIL-1bをマクロファージから強く誘導することを見出した。以上、平成27年度は残り2年のための基盤となる極めてユニークなモデルを確立した。
我々が平成27年度に見出した無菌マウスの腸管内へのUC+PSC合併患者糞便移植の独創的なモデルは肝臓内Th17細胞を誘導する。平成28〜29年度は比較的ストレートフォワードな手法を用いて、肝臓内Th17細胞を誘導する悪玉腸内細菌の同定を行なう。すなわち、すでに研究室内に設置、運用を行なっている嫌気性培養法をさまざまな培養条件のもとに実施する。その際、嫌気性培養の専門家とも連携も必要と考えている。一方、肝臓内Th17細胞を誘導する悪玉腸内細菌はメトロニダゾール感受性であることも重要な手がかりで、ヒトUC+PSC合併患者、UC+PSC糞便移植マウスいずれにおいてもメトロニダゾール投与前後でのサブトラクションの手法を取り入れる予定である。すなわち、投与前には存在して、投与後には存在しない細菌に同定の手がかりがあるとみている。さらに、肝臓内Th17細胞を誘導する悪玉腸内細菌は肝臓へ移行するという仮説が正しければ、肝臓組織を直接嫌気性培養を行なうことでショートカットで同定につながるものと考えている。
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