研究課題
炎症性腸疾患の発症予防、治療における食餌を中心とした栄養に関しては、エビデンスに乏しく経験に基づいたものであるのが現状である。この点を明らかとする目的で、健常人(HC)、潰瘍性大腸炎(UC)患者、原発性硬化性胆管炎合併潰瘍性大腸炎(PSC/UC)患者糞便を無菌マウスへ移植したヒト糞便化マウス(HCマウス、UCマウス、PSC/UCマウス)を作成した。驚くべきことに、PSC/UCマウスでは肝臓内Th17細胞の集積を認めた。また、PSC/UCマウスでTh17細胞の移入に関与しうるserum amyloid Aの発現亢進も確認した。この現象はHCマウス、UCマウスでは認めなかった。このことは、腸管外合併症としてのPSC免疫現象に腸内細菌が関与する証拠であり、次に、責任腸内細菌を同定する目的で、我々は腸管ではなく腸間膜リンパ節が腸管外免疫反応の責任部位と仮説を立て、同部位の嫌気性培養を実施したところ、PSC/UCマウスのみでKlebsiella pneumoniaの同定培養に成功した。これまでのmetagenomicsは包括的に腸内細菌の理解には重要なツールとして広く用いいられてきたが、マイナーな腸内細菌の定量には困難であり、我々の解析でも Klebsiella pneumoniaを定量することはできなかった。しかし、Q-PCR法にて解析したところ、PSC/UC患者に高頻度にKlebsiella pneumoniaが検出されることを確認した。次年度は、Klebsiella pneumoniaにフォーカスを当てさらなる解析、結論を見いだす予定である。
2: おおむね順調に進展している
ノトバイオートシステムの構築はすでに完成し、コンタミネーションもなく研究体制が出来上がった。本年は、食餌の影響についての追求が乏しかった反面、予想外に腸管外免疫現象(PSC肝臓Th17反応)に関与しうる腸内細菌を同定することができた。PSCは高脂血症薬の一定の効果が期待でき、PSC/UCノトバイオートマウスでの高脂肪食によるPSC症状の悪化を今後は見てみたい。また、食餌に関しては“多様性”ある腸内細菌構築には多様性ある食物繊維(マルチプル ファイバー)の開発に着手したので、ノトバイオートシステムと関連した研究の準備が整ったといえる。
これまでの検討から、炎症性腸疾患患者のうち、UCとPSCの合併症例は、腸内細菌と腸管外合併症である肝臓病変の関連、すなわち、腸肝相関を解明するヒトベストモデルと考えられ、平成28年の実績をさらに推進していきたい。移植後、経時的にマウス糞便metagenomics解析、metabolome解析を行う。移植成立を確認後、移植2週間後、健常人糞便化マウス、UC・PSC合併患者糞便化マウスにDSS腸炎誘導、DCC胆管炎誘導を行ない、マウス腸炎の重症度を解析する(。UC・PSC合併患者糞便化マウスの腸管、肝臓より嫌気性培養にてpathobiont菌を分離し、個々同定細菌によるノトバイオートマウスを作成し、腸炎、胆管炎に寄与する機序を明らかとする。同様に、UC・PSC合併患者糞便化マウスを作成し、以後、正常食、高脂肪食、高繊維食(プレバイオティクスカクテル)を投与し、経時的なmetagenomic変化と疾患バイオマーカー(腸管、肝臓Th1細胞、Th17細胞、Treg細胞、SAA1/2/3、IL-22、IL-1、IL-6、IL-23)の変化との相関を明らかとする。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 2件)
Nature
巻: 544 ページ: 13-14
doi: 10.1038/nature22081. [Epub ahead of print]
Intest Res
巻: 15(1) ページ: 68-74
10.5217/ir.2017.15.1.68.
Gastrointest Endosc.
巻: 85(3) ページ: 639-646
10.1016/j.gie.2016.11.013.
J Crohns Colitis.
巻: 10(11) ページ: 1259-1266
10.193/ecco-jcc-jjw152
Abdom Radiol (NY).
巻: 42(1) ページ: 141-151
10.1007/s00261-016-0878-5.
Digestion
巻: 93(1) ページ: 66-71.
巻: 93(3) ページ: 193-201
10.1159/000444217
J Gastroenterol.
巻: 51(9) ページ: 853-61
10.1007/s00535-016-1220-2
J Crohns Colitis
巻: 10(11) ページ: 1303-1309
10.1093/ecco-jcc/jjw104
Cell Stem Cell
巻: 18(6) ページ: 827-38
10.1016/j.stem.2016.04.003.