研究課題
肺動脈性肺高血圧症(Pulmonary arterial hypertension, PAH)は、血管内皮機能低下・血管平滑筋細胞増殖・炎症細胞浸潤などが複雑に相互作用し、肺微小血管の壁肥厚・狭小化(肺血管リモデリング)が進行する致死的疾患である。早期診断は循環器専門医でも難しく、肺移植実施施設に紹介された時点で、既に終末期にあることも多い。重症患者を救う最終手段は依然として肺移植以外に無いが、ドナー数は限られ、移植まで間に合わない症例が多い。なかでも特発性肺動脈性肺高血圧症患者(IPAH)の多くは急速な進行を示し、高度の肺動脈リモデリングを示すため、内科的多剤併用療法によっても右心不全のコントロールに難渋し、若くして死亡する症例も多い。このようにPAHは、依然として内科的根治療法のない致死性疾患である。東北大学病院は、肺高血圧症・肺移植専門施設としての実績を有し、長年にわたり、肺高血圧症に対する基礎的・臨床的研究を行ってきた。しかし、肺高血圧症治療薬の多剤併用療法によっても助けられない症例も依然多く、従来の肺血管拡張作用を標的にした治療薬以外の新たな病因蛋白の探索と創薬が必要と考えられている。以上の背景を踏まえ、我々は最近、PAH患者由来組織の網羅的解析により新規病因蛋白の探索を行い、3種類の新規病因蛋白を発見した。3種類の新規蛋白は、PAH患者の肺組織(特に肺血管平滑筋細胞)に強い発現を示し、その合成蛋白は血管平滑筋細胞増殖作用を示した。また、平滑筋細胞特異的な遺伝子欠損マウスは慢性低酸素性の肺高血圧の発症の減弱を示した。本研究では、この発見に基づき、全く新しい作用機序からの肺高血圧症の治療薬のハイスループットスクリーニングを進めている。
2: おおむね順調に進展している
PAH領域において、これまで様々な治療薬の開発が進められてきたが、そのいずれも肺血管拡張作用を標的にしたものである。しかし、その多剤併用療法によっても十分な治療効果が得られない症例も多い。肺血管リモデリングの基盤は肺微小血管平滑筋細胞の異常増殖であるが、この増殖抑制を標的とした治療薬開発により、より有効な治療薬開発が期待できる。従って、本研究を進める切り口として、我々は、PAH由来血管平滑筋細胞から分泌される増殖因子のスクリーニングとそれを標的とする薬剤開発を目指すことを着想した。こうした切り口により、PAH患者由来の肺組織や血管平滑筋細胞を網羅的に解析し、PAH由来平滑筋細胞で特異的に発現・分泌される蛋白を対象に候補遺伝子・新規蛋白の選択・絞り込みを行い、全く新しいPAH病因蛋白3種類を見出した。以上の手法による研究は順調に進んでいると考えられ、実際、マウスの肺高血圧モデルを用いた検証を行うことができたことから、進捗状況としては「おおむね順調に進展している」と考えられる。
以上のように、新規病因蛋白を見いだし、遺伝子改変マウスを用いた動物実験による検証が進んでいる。そこで、その新規病因蛋白をターゲットとする新規薬剤のスクリーニング(創薬)を進めることにしている。最終的に絞り込まれたPAHの新規病因蛋白3種類に関して、血管平滑筋特異的遺伝子欠損マウスおよび過剰発現マウスを作成し、慢性低酸素性肺高血圧症モデルによる検討が進んでいるが、これらの動物実験は当科で継続的に行っており、既にそのノウハウも蓄積している。病因蛋白が動物実験でも証明されつつあることから、その病因蛋白の発現・分泌レベルを制御する薬剤のハイスループット・スクリーニング(HTS)を行うこととする。米国や日本で承認済みの数千の薬剤ライブラリーに加えて、東北大学独自で臨床応用目的に開発した薬剤ライブラリーの中から有望な薬剤を検索することで、時間的・経済的に最も効率の良い方法を採用する。東北大学には創薬機構の支援を受け、「創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業」が設置され、創薬に活用可能な技術基盤の整備が行なわれている。こうしたアカデミア創薬基盤を有効に利用し、PAH患者に対する新しいメカニズムで作用する新規治療薬開発を進めていく。
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