研究課題/領域番号 |
15H02536
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
栗原 裕基 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (20221947)
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研究分担者 |
富田 幸子 ヤマザキ学園大学, 動物看護学部, 教授 (40231451)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 心臓 / 血管 / 器官形成 / 細胞分化 / 循環器 / 再生医学 |
研究実績の概要 |
本研究は、我々がこれまで同定した心臓細胞の新たな系譜である頭部(前耳胞)神経堤細胞と胚外に生じる原羊膜壁側中胚葉を中心に、心臓における起源細胞の多能性と多様性、時空間的な分布パターン、細胞運命を明らかにしつつ、鳥類胚のラベル実験などにより 心臓形成に寄与する全細胞系譜マップの完成を目指すものである。脊索動物から脊椎動物、羊膜類と進化する過程で獲得されたと考えられるこれらの細胞系譜が他の細胞群とどのように相互作用し、心臓形態の複雑化にどのように寄与しているのかを明らかにし、さらにこれらの知見を基盤として、マウス-鳥類間のキメラ移植実験などを用いて組織再生に最適化された細胞移植による再生戦略を探究することを目的としている。 平成28年度研究において、体壁や羊膜の起源となる壁側葉中胚葉からも鰓弓や心臓内に細胞が流入し、心筋細胞などに分化する知見について、羊膜形成における細胞動態との連動、血管系細胞への分化、それぞれ分化に関与するシグナル分子の役割なども含めて論文発表した(Asai R, et al. Sci. Rep. 7(1):8955, 2017.)。心臓内に遊走する神経堤細胞の分布やレチノイン酸シグナルの影響を示すとともに、単一細胞レベルのRNA-seqによる網羅的遺伝子発現解析から心臓内の神経堤細胞の多様性と分化特性を明らかにした。現在、病態との関連を含めてこれらの細胞の役割を検討中である。冠動脈形成に関しては、リンパ管形成に依存した入口部形成とセマフォリンシグナルの関与が明らかになり、29年度の重要テーマとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心大血管の新たな起源領域を探索する研究過程で、羊膜や体壁を形成する壁側葉領域から細胞が心臓内に遊走してくるという知見が生じ、そのために細胞動態をリアルタイムで観察し、その運命を追跡することでこの知見を裏付るとともに、羊膜形成における細胞動態との連動、血管系細胞への分化、それぞれ分化に関与するシグナル分子の役割などもさらに明らかになり、繰り越し申請を行って解析を精緻に進めることにより平成29年度に研究を継続した、この成果を論文発表した(Asai R, et al. Sci. Rep. 7(1):8955, 2017)。一方、心臓内に遊走する神経堤細胞の分布やレチノイン酸シグナルの影響を示すとともに、単一細胞レベルのRNA-seqによる網羅的遺伝子発現解析から心臓内の神経堤細胞の多様性と分化特性が明らかになり、病態形成の基盤を理解する上でも新しい知見が得られている。また、マウスにおけるレチノイン酸投与実験により、これらの前耳胞神経堤細胞の心臓への遊走・分化にはレチノイン酸シグナルが関与している可能性が考えられた。冠動脈形成においては、セマフォリンシグナル冠動脈形成や病態形成における役割を明らかにしてきたが、リンパ管形成に依存した冠動脈入口部形成とセマフォリンシグナルの関与が明らかになり、29年度研究として検討を進めた。以上から、計画当初では予期していなかった知見も含め、研究は順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
胚外に生じる原羊膜壁側中胚葉の心臓組織への寄与については、論文発表の内容を単一細胞レベルのRNA-seqなどによってさらに進展させる。セマフォリンシグナルによる冠動脈形成についてもリンパ管形成との関連をさらに解析し、論文化を進める。また、神経堤細胞におけるc-Kit陽性の幹細胞様細胞群や壁側中胚葉における心筋分化能を保持した細胞については、単一細胞レベルの遺伝子発現解析やマーカー分子による細胞同定をさらに進めており、細胞系譜マップの完成とともに、マウスにおける心筋梗塞などの病態での細胞動態や心筋再生の可能性について、当初の予定どおり研究を進める。
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