研究課題/領域番号 |
15H02560
|
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
淺原 弘嗣 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (70294460)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | Mkx / 腱・靱帯 / 運動器 / GTF2IRD1 |
研究実績の概要 |
本年度は、マウスを用いて、腱・靭帯の1細胞レベルでのシークエンス法などを用いることで行い、新たな腱・靭帯組織のプロジェニター細胞の同定を行った。これらのデータによって、腱細胞の遺伝子動態について解析を行った。これらの細胞の分化を検討する中で、腱細胞をiPS細胞から誘導する手法を開発した。さらに、ヒト組織において、同様の細胞が存在するか検討するために必要な研究の準備を行い、次年度には研究を進める用意ができた。 これら細胞が、腱の治癒を誘導するか検討するため、マウスを用いた腱損傷および治癒のモデルを導入し、細胞移植実験を行った。さらに、これら細胞を用いて、腱様組織が人工的に作成できるかどうかの基礎的な条件検討を行った。これら実験においては、力学的な考察を加え、より生理学的な腱の修復の機序の解明を行った。 また、Mkx遺伝子の改変マウスおよびラットを作成することで、クロマチン免疫沈降や生後でのMkxの重要性を検討するためのシステムを構築した。これらを用いて、次年度の研究を進めることができる。Mkxの上流の制御シグナルとしては、遺伝子ライブラリーと化合物ライブラリーの両面からアプローチし、それぞれ候補となる分子を得た。これら候補を更に詳細に解析する中で、Mkxを誘導するシグナル伝達機構の一端が解明できた。また、MkxとScxという二つの腱のマスター転写因子の相互作用についても、細胞レベルおよび個体レベルにおいて検討を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、我々の同定した腱・靭帯に特異的な転写因子Mkxの腱・靭帯組織の発生と維持に必須の機能とそのメカニズムを解明し、Mkxを用いた幹細胞からの腱・靭帯再生研究を進めてきている。特に、MkxノックアウトラットをCRISPR/Cas9を用いて作成し、そのフェノタイプを解析したところ、アキレス腱が異所性骨化を起こすことを見出した。Mkxノックアウトラットにおいて、歩行解析を行ったところ、足関節の可動域に異常を認めた。 このメカニズムとして、マイクロアレイおよびChIP(クロマチン免疫沈降)-シークエンスを組み合わせた実験結果の解析より、Mkxが腱に必要な遺伝子発現を促すだけでなく、骨化に関わる遺伝子の抑制制御を同時におこなっている可能性が示唆された。 また、in vitroでのメカニカルストレスの実験系により、野生型の腱細胞は、メカニカルストレスに応答して、腱に必要な遺伝子群の促進のみが起こるが、Mkxを欠損した腱細胞では、腱関連遺伝子の促進は起こらず、代わりに、Sox9など骨・軟骨関連遺伝子の発現が促進することが示された。以上により、Mkxには腱を保持し、腱以外の組織への間違った分化を抑制する2面があり、これによって、腱・靭帯の恒常性が保たれることが示唆された。しかしながら、現在までの研究においては、成体におけるMkxの機能を詳細に検討できていない。 そこで、Mkxが生後においてどのような機能を有しているか検討するために必要な遺伝子改変マウスおよびラットを作成した。これらを用いることで、Mkxのもつ腱組織の恒常性維持および修復における機能が明らかになると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
1、新たにMkxの遺伝子改変マウスとラットを作成し、時空間特異的にMkxをノックアウトする系を構築、これを用いて、Mkxの発生と恒常性の両方の機能を解析する。特に、生後におけるMkxの機能をこのシステムで明らかにする。 2、腱の損傷モデルを確立し、Mkxが欠損したマウスにおいて腱損傷治癒におけるMkxの機能を解析する。 3、Mkxを制御する上流遺伝子として、スクリーニングにおいて候補に挙がった遺伝子群を中心に、それらの機能を解析し、Mkxの発現がどのように調節されるかを明らかにする。 4、Mkxの下流遺伝子として、新規にMkxにタグを挿入したマウスを作出し、これを用いて、内因性のMkxによって直接制御される下流遺伝子を同定、その機能を解明し、Mkxを起点とした遺伝子ネットワークを明らかにする。
|