研究課題
我々は世界に先駆けてヒトiPS細胞から機能をもつ長い軸索を有する網膜神経節細胞の作製に成功した。本研究では、細胞移植、疾患原因解明、創薬に資するべく、高度な品質の細胞を均質かつ安定に作製するよう技術を改善するとともに、視神経のin vitro研究への可能性を明らかにすることを目的とする。昨年度は、この細胞作成技術がES細胞や他の動物細胞に応用できるかを検討し、ヒトおよびマウスのiPS細胞、ES細胞いずれでも機能をもつ長い軸索を有する網膜神経節細胞へ自己分化を誘導させることに成功した。いずれの網膜神経節細胞も固有蛋白が存在し、超微細構造や軸索流、電気生理学的検討から成熟した細胞であり、90%以上の作製効率と50日以上の生存を可能とした。当該年度は、この網膜神経節細胞の軸索伸長における神経栄養因子、抑制因子の影響を検討した。全体投与でも局所投与でも、軸索の伸長は神経栄養因子で亢進し、抑制因子で抑制した。また、これらの因子による分化、軸索伸長に関わる遺伝子の発現変化をマイクロアレイで網羅的に検討した。軸索を構成するneurofilament等だけでなく、一部の転写因子も変化していた。さらに、これらの因子による成長先端の形態変化、軸索伸長における細胞の選択、不要細胞のアポトーシスによる除去を明らかにした。本研究は、視神経の研究において初めてヒト細胞を用いたin vitro実験を可能にしたものであり、創薬や移植に向けて研究を進めている。
2: おおむね順調に進展している
昨年度までに、ヒトiPS細胞だけでなく、ヒトES細胞、マウスiPS細胞、マウスES細胞からも機能をもつ長い軸索を有する網膜神経節細胞の作製に成功した。いずれも構造、機能ともにきわめて完成度が高いことは、有用である、ことに、ヒト細胞を用いて、in vitro研究が可能となった意義は大きい。当該年度は、創薬研究に向けて、薬物化合物の評価の方法を検討した。その結果、培養液全体に投与した場合でも、局所投与した場合でも、細胞の分化や軸索伸長で容易に観察でき、さらにマイクロアレイで薬物動態を詳細に検討できることが示された。この網膜神経節細胞は90%以上の作製効率と50日以上の生存可能を達成しており、多くの候補化合物を濃度や投与時期を変え、経時的に検討できる点で、創薬や移植の研究に有用であることが明らかになった。ヒトiPS細胞を用いれば患者由来の細胞から疾患iPS細胞を作製して疾患の発生や病態の分子メカニズムを研究するとともに、その治療薬の創薬研究ができる。マウスiPS細胞ではさまざまな遺伝子改変マウスの細胞を用いて、in vitroの研究をすることが可能である。これらを合わせて、疾患の分子メカニズム解明、創薬、移植等の再生医療の研究を進める基盤が整った。
移植に向けた、純粋な網膜神経節細胞の単離と大量作製技術:ラット等では、特異抗体を用いて網膜神経節細胞を分離する技術が開発されているが、この技術を用いて、ヒトの網膜神経節細胞の純化と大量作製の技術開発を進めている。隣接細胞ことにグリア細胞との相互関連の検討:網膜神経節細胞ことに軸索が単独で分化し、生存することは有り得ない。生体における状態を考えると、Muller細胞、astrocyteのグリア細胞とのクロストークが重要である。ことに、発生初期には網膜は無血管であり、グリアが網膜神経節細胞の生存維持、分化補助に関わっている。グリア細胞から成長因子や保護因子が放出されている可能性があり、プロテオーム解析等で検討する。網膜神経節細胞の分化の分子機構:分化に関わる遺伝子はまだ十分に明らかにされていない。In vitroでの自己分化における各時期でマイクロアレイ検討を行い、発生分化に関わる遺伝子を網羅的jに検討する。軸索のpathfinding:網膜細胞の軸索は、視神経入口を目指し、さらに視交叉では交叉線維と非交叉線維に分かれて伸長する。In vitroでこのnerve pathfindingの分子メカニズムをin vitroで解明する可能性がある。これによって、視力や両眼視などの視覚成立の普遍的なメカニズムを解明する可能性がある。既知の細胞誘導物質、Shh、BMP4、Eph、Slit1などの神経伸長への影響を検討する。他の網膜細胞の作製:iPS細胞・ES細胞由来の網膜神経節細胞は、眼胞から網膜への初期分化を経て作製するため、他の細胞を作製できる可能性がある。既にミューラー細胞等を作製し、その特徴を確認するとともに単離を試みている。
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
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