研究課題/領域番号 |
15H02588
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
加藤 昌志 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (10281073)
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研究分担者 |
石川 健治 名古屋大学, 工学研究科, 特任教授 (60417384)
大神 信孝 名古屋大学, 医学系研究科, 講師 (80424919)
矢嶋 伊知朗 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (80469022)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 環境 / 社会医学 / 衛生 |
研究実績の概要 |
アジアを中心に飲用井戸水の元素汚染が原因で多くの慢性ヒ素中毒患者が発生し、中毒患者から皮膚癌をはじめとする種々の癌が発症している。本研究では、飲用井戸水等の元素汚染に焦点を当て、1)アジア地域にて、井戸水等における元素汚染の現状を把握し、2)慢性元素中毒患者の黒皮症・角化症・皮膚癌を誘発する可能性のある元素を、バイオマーカー等を用いて特定できる健康リスク評価技術を細胞・動物・ヒトの知見を組み合わせて開発するとともに、健康リスク評価を実践し、井戸水から浄化すべき元素を特定し、3)有害元素を飲用井戸水からの除去できる浄化技術の試作品を完成し、実用化への道筋をつける、ことを目的としている。 H27年度において、バングラデシュ等において、飲用水・雨水・河川水を採取するフィールドワークを実施し、水検体をICP-MS・イオンクロマトグラフィー等を用いて元素濃度を測定した。次に、アジア地域のフィールドワーク調査で採取されたヒト検体(尿・爪・毛髪)における無機および有機の元素の濃度をICP-MSにて、尿中Placental Growth Factor(PlGF)濃度をELISAにて測定した。さらに、細胞株を用いた研究により、ヒ素の曝露により皮膚細胞から分泌されるPlGFの増加が、ヒ素性皮膚癌の誘発に関与している可能性を報告し、PlGFは、ヒ素性発癌リスクを評価できるバイオマーカーとなりえる可能性を国際科学誌に公表した。さらに、5価ヒ素と六価クロムの複合曝露により、皮膚非癌細胞の形質転換が促進されることを示すとともに、本反応にPI3キナーゼとAKTの活性が関与している可能性を国際科学誌に公表した。また、先行研究で開発した浄化材の変異原性等、安全性に関わる項目の一部を調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究におけるアジア地域のフィールドワークにおいて、当初の計画にあった飲用井戸水に加えて、河川・雨水等を採取できた。さらに、飲用井戸水ヒ素汚染地域の住民の尿中Placental Growth Factor(PlGF)濃度が高いことを示しただけでなく、PlGFがヒ素性皮膚癌の発症に関与している機構を細胞レベルで解明することにより、PlGFを、ヒ素性皮膚癌を予測できる具体的なバイオマーカーとして世界に発信できた。さらに、有害元素の複合曝露の発癌毒性を評価できる技術を提案した。以上のように、当初の計画に比較して、より広範囲を検討を実施し、より具体性のある提案ができたので、当初の計画以上に進展と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度も引き続き、下記に示すような、1)飲用水元素汚染の現状把握、2)健康リスク評価、3)浄化材の開発、に関する研究を進める。 1)飲用水元素汚染の現状把握:アジア地域の海外学術調査を推進するとともに、各地で採取された飲用井戸水の元素濃度を液体クロマトグラフィー誘導結合プラズマ質量分析法(LC-ICP-MS)およびイオンクロマトグラフィーにて、有機物濃度をガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)にて測定する。 2)健康リスク評価:元素中毒患者と非元素中毒患者を対象とし、尿・毛髪・爪における元素濃度と皮膚色素異常症との関係を多変量解析で調べる疫学調査を実施し、元素が黒皮症の発症に与える影響を解析する。動物実験では、ヒト疫学調査の結果を基に、元素単独曝露や複合曝露による影響を、野生型マウスおよび遺伝子改変マウスで検討する。 3)浄化材の開発:工学系研究者との共同研究により、浄化材の粒径・微細構造・充填条件・通水条件等の最適化を検討する。
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