研究課題
【背景・目的】アジアの開発途上国を中心に飲用井戸水の元素汚染が原因で数千万人以上の慢性ヒ素中毒患者が発生し、中毒患者から癌が多発しているとの報告もある。本研究では、飲用井戸水の元素汚染に焦点を当て、1)飲用井戸水に関する情報の乏しいアジア地域を中心に元素汚染の現状を把握し、2)慢性元素中毒患者の皮膚疾患を誘発する元素を、元素の複合曝露を勘案して特定できる健康リスク評価技術を細胞・動物・ヒトの知見を組み合わせて開発するとともに、健康リスク評価を実践して井戸水から浄化すべき元素を特定し、3)有害元素を飲用井戸水からの除去できる浄化技術の開発に結びつける研究を推進している。【研究成果】1. アジアの開発途上国において、飲用井戸水を採取する海外学術調査を実施し、飲用井戸水がウランで汚染している地域を報告した。また、井戸水に含まれるウランの同位体比を調べることにより、自然由来のウラン汚染であることを証明した。さらに、ウランを吸着できる浄化材を開発し、公表した。2. アジアの開発途上国において、井戸水に対するサンドフィルターの元素浄化効果を調べた。サンドフィルターにより、井戸水に含まれる鉄およびマンガンは浄化できたが、ヒ素は浄化できないことがわかった。さらに、井戸水におけるヒ素と鉄の比が、サンドフィルターのヒ素浄化効果を低減している可能性を考察した。3. マンガンの健康リスクを評価する動物実験を行い、聴覚毒性があることを示すとともに、聴覚障害のメカニズムの一部を解明した。4. アジアの開発途上国の農村部住民を対象として、聴力とバリウムの関係を調べる疫学研究を実施した。毛髪および爪に含まれるバリウム濃度と高音域(8-12k Hz)の聴覚の間に、有意な相関関係を認めた。本成果は、バリウムがヒトの聴力を低下させる因子である可能性を示している。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、飲用井戸水の汚染に関する情報の乏しいアジア地域におけるフィールドワーク調査、ヒト疫学調査・動物実験・細胞生物学実験による元素の健康リスク評価、有害元素浄化技術等に関する総合環境研究に関して、9編の論文を国際科学雑誌に公表しているので、順調に進展していると評価できる。
今後も当初の計画通り、1)飲用井戸水の汚染に関する情報の乏しいアジアの開発途上国において、汚染の現状を把握するためのフィールドワーク調査、2)ヒトを対象とした疫学研究および動物実験・細胞生物学実験による元素の健康リスク評価、3)有害元素の浄化技術の開発、といった流れで、元素を対象とした研究を推進する。予想外の成果が得られた場合には、真偽を解明しながら研究を進め、より新規性の高い成果を公表できるようにする。
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すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 7件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件) 産業財産権 (1件)
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