研究課題
【背景】アジアの開発途上国を中心に、飲用井戸水の元素汚染に起因する慢性ヒ素中毒患者が、数千万人以上いるとの報告もあり、地球規模の重大環境問題となっている。一方、病原微生物を含む有機物に比べて、元素の浄化は難しく、本環境問題は一向に解決しない現状がある。【目的】本研究は、飲用井戸水における有害元素の汚染に焦点を当て、まず、飲用井戸水に関する情報の乏しいアジア地域を中心に元素汚染の現状を把握する。次に、悪性腫瘍等の疾患を誘発する元素を特定できる健康リスク評価技術を細胞・動物・ヒトの知見を組み合わせて開発するとともに、井戸水から浄化すべき元素を特定する。最後に、飲用井戸水から有害元素を除去できる浄化技術を開発し、実用化の道筋をつける。【研究成果】アジアの開発途上国において、飲用井戸水を採取する海外学術調査を実施し、飲用井戸水がヒ素だけでなく種々の元素に汚染されていることを示した。さらに、ヒ素により誘発される黒皮症のリスクを、色彩色素計を用いた疫学研究により、ヒトで証明した。また、ヒ素およびマンガンの難聴に対するリスクを、多変量解析を用いた疫学研究で解明した。動物実験・細胞生理学実験・無細胞系実験を融合した研究では、メラニンのバリウム吸着効果を発見するとともに、生物学的意義を証明した。一方、細胞生理学実験と無細胞系実験を用いて、3価クロムと6価クロムの複合曝露が、相乗的に発癌毒性を亢進させる可能性を報告するとともに、3価と6価のクロムを同時に吸着できる浄化技術を開発した。さらに、新規浄化技術を開発し、特許を出願した。以上のように、飲用水に含まれる有害元素に焦点を当てた包括的環境研究を推進した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、飲用井戸水の元素汚染が深刻なアジア地域に焦点を当てて海外学術調査を推進した。環境調査だけでなく、ヒトを対象とした疫学研究・動物実験・細胞生理学実験・無細胞系実験を同時に実行し、より多角的に、元素の健康リスクをヒトで評価した。さらに、リスク評価だけにとどまらず、解決策(浄化材の開発)を提案した。以上のように、包括的な環境研究の成果を着々と公表できているので、本研究は、おおむね順調に進展していると評価できる。
今後も、1)飲用井戸水に関する情報の乏しいアジアの開発途上国において、元素汚染の現状を把握するための海外学術調査、2)ヒトを対象とした疫学研究・動物実験・細胞生物学実験・無細胞系実験を用いた元素の健康リスク評価、3)多種多様な有害元素を浄化できる新技術の開発、といった流れで研究を推進する。一方、予想外の成果が得られた場合には、真偽を解明しながら研究を進め、より新規性の高い成果を公表できるようにする。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 6件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (2件) 産業財産権 (2件)
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