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2017 年度 実績報告書

アフリカ農村における技術の内部化プロセスの解明と循環型資源利用モデルの構築

研究課題

研究課題/領域番号 15H02591
研究機関京都大学

研究代表者

伊谷 樹一  京都大学, アフリカ地域研究資料センター, 教授 (20232382)

研究分担者 大山 修一  京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (00322347)
近藤 史  弘前大学, 人文社会科学部, 准教授 (20512239)
瀧本 裕士  石川県立大学, 生物資源環境学部, 教授 (60271467)
荒木 美奈子  お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (60303880)
勝俣 昌也  麻布大学, 獣医学部, 教授 (60355683)
黒崎 龍悟  高崎経済大学, 経済学部, 准教授 (90512236)
研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2020-03-31
キーワードアフリカ豚コレラ / 家畜感染症 / 自然エネルギー / ぬかくど / 籾殻 / モロコシ / 林業
研究実績の概要

この研究は、環境の持続的な利用と保全を実現する循環型資源利用モデルを構築することを目的として、これまでにa)農業の集約化、b)自然エネルギーの活用、c)林産資源の利用という課題に関する実践的な活動に取り組んできた。2017年度は、モロコシの商品化に向けた基礎調査、農業廃棄物としての籾殻の燃料化、農耕・林業・牧畜の共存の可能性を模索する調査を実施した。
近年タンザニアでは糖尿病や高血圧という生活習慣病が深刻な社会問題となっていて、その対策として雑穀食、とくにモロコシ食が見なおされている。モロコシは調査地域でも古くから栽培されてきた作物の1つで、最近ではモロコシ製の瓶ビールも発売されるなど、その市場は拡大傾向にある。モロコシ流通にとって最大の課題は貯蔵性の悪さであるが、農薬を使わずに長期間保存できる方法を在来技術のなかに見つけることができた。この結果を受けて、モロコシを核とする集約農業のあり方を検討した。
自然エネルギーについては、稲作の拡大にともなって大量に廃棄されるようになった籾殻に注目して、それを使った無煙コンロの開発に着手した。燃焼の原理は、籾殻の自発炭化によって可燃ガスを燃焼させる方法で、明治の末期に日本で開発された「ぬかくど」の技術を参考にしている。現地で手に入る材料を使って地方都市の町工場で製作し、その実用性を確認した。このコンロの普及を目的として、各地で実演販売をした。
2017年5月~7月にアフリカ豚コレラ(ASF)が全国的に大流行し、対象地域でもブタはほぼ全滅状態となり、養豚に強く依存していた地域経済は大打撃を受けた。本研究では、農耕・林業・牧畜業・農村工業を複合した生業体系を構想していたが、急遽、ASFの被害状況の調査に切り替え、ブタの放し飼いが被害の拡大を招いていたことを確認した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

調査地域では、2016年にダニ熱・牛肺疫の同時発症と思われる感染症によって多くのウシが病死し、翌2017年にはアフリカ豚コレラによって養豚業が壊滅状態に陥るなど、研究をすすめる上で弊害となるできごとが相次いだ。家畜の感染症について調べてみると、じつはこうしたアウトブレイクは過去にも5年ほどの周期で繰り返されていたが、農村レベルで起こる家畜感染症の詳しい状況は記録されず、対策も講じられないまま看過されてきたのである。私たちはこうした事態を重く受けとめ、家畜に依存するリスクを循環型資源利用モデルに反映することにした。当初、農業・林業・牧畜業・農村工業が相互に支え合う一体的な生業様式がモデルの骨格になると考えていたが、生計と食料生産の両方が畜力に強く依存する現行の構造はあまりにも危険すぎる。アフリカの家畜はつねに多くの感染症にさらされていて、実際はとても脆弱でデリケートな存在であることを強く認識しておかなければならない。干ばつなどの不良天候のもとでは、家畜もまた飲み水や牧草の不足によって衰弱し、病気を発症しやすい状態になっているのである。この2年間の調査は、天候不順のときに農耕と牧畜が連鎖して被害を長期化させる可能性を示すもので、天候の影響を受けにくい林業がモデルの中心に据える構造の検討を急ぐことにした。水撃ポンプ用の揚水システムは完成していたので、動力源をガソリンポンプに置き換えて植林用の苗床センターを設置した。当面は、この育苗センターを拠点としながら林業振興などの諸活動をすすめていくことになる。

今後の研究の推進方策

この研究では、タンザニア農村における自然資源の持続的な利用を念頭におきながら、地域の発展に資する外来技術や方法が農村のなかでどのように根付いていくのかを調査してきた。降雨が不規則な半乾燥地域においては、生業を多様化することが天候不順のリスクを分散する手だてとなる。とりわけ天候の影響を受けにくい林業は、それ自体が環境保全の一翼を担うとともに、地域経済の安定した基盤にもなる多目的な生業である。ただし、林業に取り組むにはさまざまな課題もあって、他生業との軋轢を克服しながら社会や環境への適正化を図っていく必要がある。定植した樹木の稚樹は放し飼いの家畜に食害されることもあろうし、大きく生長しても焼畑や狩猟で発生した野火で樹木が焼失してしまうかもしれない。こうした課題に対しては社会全体で取り組む必要がある。地域住民の理解を得るために、林業が長期的な管理・手間にみあった利益をもたらすことを実証していかなければならない。
これまでの研究で、自然エネルギーの活用が地域の経済、農業、環境保全に関わる活動をつなぎ、それぞれの活動を賦活することを見いだした。活動が緒についたばかりの2017年にはアフリカ豚コレラがタンザニア南部地域を襲い、当該村でもブタが全滅した。その前年にダニ熱・牛肺疫が流行して多くの役畜を失ったばかりで、経済面と労働面で農民の痛手は大きく、それによる不安が村の緊張感を高めている。そういうときこそ、自然エネルギー生産に関わる新規の活動によって住民の連帯が強まることを期待している。2018年度は、畜産への負荷を軽減しながら、林業と自然エネルギー生産を中枢に据えた生業複合の実践をすすめ、生業同士が依存しすぎない新たな連携のかたちを考案して循環型資源利用モデルに反映させていきたい。

  • 研究成果

    (33件)

すべて 2018 2017

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (23件) (うち国際学会 1件、 招待講演 8件) 図書 (6件)

  • [雑誌論文] 地域の持続性に向けた共創手法の探求2018

    • 著者名/発表者名
      杉山祐子,日比野愛子,曽我亨,近藤史,古村健太郎,平井太郎,諏訪淳一郎
    • 雑誌名

      地域未来創生センタージャーナル

      巻: 4 ページ: 41-44

  • [雑誌論文] Expression of catinonic amino acid transporters in pig skeletal muscle during postnatal development2017

    • 著者名/発表者名
      A. Ishida, A Ashihara, K Nakashima, M Katsumata
    • 雑誌名

      Amino Acids

      巻: 49 ページ: 1805-1814

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 白山源流で発生した地すべりによる濁水が手取川の流域環境及ぼす影響とその対策2017

    • 著者名/発表者名
      柳井清治・岡崎正規・高瀬恵次・瀧本裕士・一恩英二・百瀬年彦・藤原洋一・北村俊平・長野峻介・本多裕司
    • 雑誌名

      石川県立大学年報

      巻: 28 ページ: 9-34

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Effect of Flood Peak Discharge Control by a Small Reservoir in an Urbanized Area; Case Study in the Kurabe River Basin, Japan2017

    • 著者名/発表者名
      Kouzo Ito, Manabu Segawa, Hiroshi Takimoto, Toshisuke Maruyama
    • 雑誌名

      Open Journal of Modern Hydrology

      巻: 7 ページ: 314-330

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 西アフリカ・ニジェールにおけるテロと紛争、その予防に対する取り組み2018

    • 著者名/発表者名
      大山修一
    • 学会等名
      東京大学大学院総合文化研究科「人間の安全保障プログラム」第242回HSPセミナー
  • [学会発表] 社会変化のなかでの潜在力:アフリカで忠誠心を考える2018

    • 著者名/発表者名
      大山修一
    • 学会等名
      平成29年度 京都大学アフリカ地域研究資料センター公開講座 シリーズ アフリカ潜在力
  • [学会発表] 西アフリカ・サヘル帯における農耕民と牧畜民間の紛争予防の試み:作物の食害に起因する武力衝突の回避と交渉に着目して.日本オセアニア学会・日本アフリカ学会合同シンポジウム『紛争と共存をめぐるローカルな対処:オセアニアとアフリカの事例から』2018

    • 著者名/発表者名
      大山修一
    • 学会等名
      日本オセアニア学会第35回研究大会
  • [学会発表] 東通村×学生 ジオ観光振興に向けた試み2018

    • 著者名/発表者名
      近藤史
    • 学会等名
      生態人類学会第22回研究大会
  • [学会発表] 牛肺疫とアナプラズマ病の同時発 症について.フォーラム「みすごしてきたアフリカの家畜に潜む感染症の問題」2017

    • 著者名/発表者名
      神田靖範・伊谷樹一・勝俣昌也
    • 学会等名
      日本アフリカ学会第54回学術大会(信州大学)
  • [学会発表] 繰り返されるアウトブレイクの内部 要因.フォーラム「みすごしてきたアフリカの家畜に潜む感染症の問題」2017

    • 著者名/発表者名
      伊谷 樹一・神田靖範・勝俣昌也
    • 学会等名
      日本アフリカ学会第54回学術大会
  • [学会発表] 「逆転の発想」による荒廃地の環境修復と紛争予防―ニジェール・ニアメ首都圏における有機ゴミの収集と緑化活動2017

    • 著者名/発表者名
      大山修一
    • 学会等名
      日本アフリカ学会第54回学術大会
  • [学会発表] 西アフリカ・サヘルにおける都市の生ゴミを利用した環境修復とその社会貢献2017

    • 著者名/発表者名
      大山修一
    • 学会等名
      日本沙漠学会2017年第28回学術大会
  • [学会発表] Autonomy and authority of chiefs regarding administration of customary land in Zambia2017

    • 著者名/発表者名
      Oyama, S.
    • 学会等名
      60th annual meeting of African Studies Association. Land Reform, Rural Changes, and Political Power in Africa
    • 国際学会
  • [学会発表] アフリカにおける砂漠化の問題とその対処法2017

    • 著者名/発表者名
      大山修一
    • 学会等名
      阪神シニアカレッジ 国際理解学科
  • [学会発表] 扇状地地下水の形成機構評価に向けた環境同位体モニタリング2017

    • 著者名/発表者名
      吉岡有美・伊藤真帆・中村公人・瀧本裕士・土原健雄
    • 学会等名
      日本地下水学会2017年春季講演会
  • [学会発表] 手取川扇状地における地下水位と河川水位との関係.2017

    • 著者名/発表者名
      伊藤真帆・中村公人・吉岡有美・瀧本裕士・川島茂人
    • 学会等名
      平成29年度農業農村工学会大会講演会
  • [学会発表] 手取川河川近傍の地下水位に及ぼす河川水位の影響2017

    • 著者名/発表者名
      伊藤真帆・中村公人・吉岡有美・瀧本裕士・川島茂人
    • 学会等名
      農業農村工学会京都支部研究発表会第74回研究発表会
  • [学会発表] 手取川扇状地におけるSrの安定同位体比と濃度による地下水涵養機構の検討2017

    • 著者名/発表者名
      吉岡有美・中村公人・伊藤真帆・瀧本裕士
    • 学会等名
      農業農村工学会京都支部研究発表会第74回研究発表会
  • [学会発表] 斜面崩壊後の手取川扇状地における地下水涵養機構の変化に関する評価2017

    • 著者名/発表者名
      吉岡有美・中村公人・伊藤真帆・瀧本裕士・櫻井伸治・堀野治彦
    • 学会等名
      第7回同位体環境学シンポジウム
  • [学会発表] ブリコラージュが拓くアフリカ農村の新たな人間-環境系2017

    • 著者名/発表者名
      近藤史
    • 学会等名
      上智大学・旅するアフリカ
    • 招待講演
  • [学会発表] 地域の人びとが楽しく暮らせる社会の仕組みづくり2017

    • 著者名/発表者名
      近藤史
    • 学会等名
      東通村・第1回『観光開発事業プロジェクト』実行委員会基調講演
    • 招待講演
  • [学会発表] アフリカ農村にみる環境利用の知恵2017

    • 著者名/発表者名
      黒崎龍悟
    • 学会等名
      第34回 高崎経済大学公開講座:現代社会への多面的アプローチ
    • 招待講演
  • [学会発表] 東アフリカ・インド洋に開かれた世界2017

    • 著者名/発表者名
      黒崎龍悟
    • 学会等名
      平成29年度東京都北区中央公園文化センター公開講座:サハラ以南アフリカへのいざない~歴史・文化・生活~
    • 招待講演
  • [学会発表] アフリカの器用仕事に学ぶ2017

    • 著者名/発表者名
      黒崎龍悟
    • 学会等名
      第10回東京外国語大学現代アフリカ地域研究センター(SC)セミナー
    • 招待講演
  • [学会発表] ラジオ高崎のラジオゼミナール2017

    • 著者名/発表者名
      黒崎龍悟
    • 学会等名
      ラジオ高崎
    • 招待講演
  • [学会発表] NHK world radio Japan(スワヒリ語)2017

    • 著者名/発表者名
      黒崎龍悟
    • 学会等名
      NHKラジオ・ジャパン
    • 招待講演
  • [学会発表] アフリカにおける開発支援の評価・モニタリングに関する一視点―支援の複合的状況に着目して―2017

    • 著者名/発表者名
      黒崎龍悟
    • 学会等名
      高崎経済大学・経済学会研究会
    • 招待講演
  • [図書] 環境・感染症問題. 宮本正興+松田素二編「新書アフリカ史」,2018

    • 著者名/発表者名
      伊谷樹一
    • 総ページ数
      784
    • 出版者
      講談社現代新書
    • ISBN
      978-4-06-513948-6
  • [図書] 「人と自然の生態学」掛谷誠著作集第1巻2017

    • 著者名/発表者名
      伊谷 樹一・伊藤 詞子・大山 修一・黒崎 龍悟・近藤 史・杉山 祐子・寺嶋 秀明 ・,山本 佳奈編
    • 総ページ数
      574
    • 出版者
      京都大学学術出版会
    • ISBN
      9784814001279
  • [図書] 開発援助・協力.島田周平・上田元編「世界地誌シリーズ8 アフリカ]2017

    • 著者名/発表者名
      荒木美奈子
    • 総ページ数
      176
    • 出版者
      朝倉書店
    • ISBN
      978-4-254-16928-7
  • [図書] ザンビアの土地政策と慣習地におけるチーフの土地行政.武内進一編『現代アフリカの土地と権力』2017

    • 著者名/発表者名
      大山修一
    • 総ページ数
      315
    • 出版者
      アジア経済研究所
    • ISBN
      978-4-258-04631-7
  • [図書] アフリカ農村における自給生活の崩壊と貧困、テロリズム.矢ヶ崎典隆・菊地俊夫・丸山浩明編『地誌トピック2. ローカリゼーション-地域へのこだわり』2017

    • 著者名/発表者名
      大山修一
    • 総ページ数
      139
    • 出版者
      朝倉書店
    • ISBN
      978-4-254-16882-2
  • [図書] アフリカ農村社会の自給生活とその将来.矢ヶ崎典隆・菊地俊夫・丸山浩明編『地誌トピック2. ローカリゼーション-地域へのこだわり』2017

    • 著者名/発表者名
      大山修一
    • 総ページ数
      139
    • 出版者
      朝倉書店
    • ISBN
      978-4-254-16882-2

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公開日: 2019-12-27  

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