研究課題/領域番号 |
15H02602
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
伊藤 るり 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (80184703)
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研究分担者 |
小ヶ谷 千穂 フェリス女学院大学, 文学部, 教授 (00401688)
森 千香子 一橋大学, 大学院法学研究科, 准教授 (10410755)
大橋 史恵 武蔵大学, 社会学部, 准教授 (10570971)
宮崎 理枝 大月短期大学, 経済科, 教授 (20435283)
定松 文 恵泉女学園大学, 人間社会学部, 教授 (40282892)
中力 えり 和光大学, 現代人間学部, 准教授 (50386520)
平野 恵子 北海道教育大学, 教育学部, 特任准教授 (50615135)
小井土 彰宏 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (60250396)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 家事労働 / 国際移動 / ジェンダー / グローバル化 / ケア / ILO / 社会運動 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、移住家事労働者の組織化、権利保障、トランスナショナルな連帯において、ILO189号条約と批准キャンペーンがもつ意義と限界を現地調査によって解明することにある。 2年目の海外調査は以下のとおり。(1)ヨーロッパ班:フランス調査では使用者団体と政府を中心に聞き取り調査を行い、批准に向けた動きが見られない背景を考察するためのデータを得た。批准済のドイツでは、政府、労組、使用者団体以外に、市民社会の側で条約批准に動いたアクターへの聞き取り調査を実施、知見を補強した。イタリアに関しては、1年目で得た調査データの分析を行った。(2)アジア班:香港、インドネシア、フィリピンの調査では、条約がローカルな家事労働者と移住家事労働者の双方に与える影響、ならびに相互の連携についても検討した。なお、移住家事労働者が多いシンガポールについても現地調査を実施し、香港との比較材料を収集した。(3)アメリカ班:カリフォルニア州で第1次調査を実施し、2013年に成立した同州家事労働者権利章典の恒久法化をめぐる運動の実態、ならびにニューヨーク市では家事労働者のワーカーズ・コーポラティブ結成過程に関する調査を行い、アメリカ合衆国に特徴的なローカルなレベルでの連係構造の解明に努めた。(4)日本班:特区に家事労働者を送り出すフィリピン側に関して、政府、ならびに送り出し養成機関等について聞き取り調査を実施し、特区の家事労働者受け入れ事業の認識を確認した。 上記のほか、2016年12月10日(土)~11日(日)の2日間にわたって、本研究の中間報告を兼ね、E・ボリス教授ほか研究者や家事労働者団体関係者を招いて、国際シンポジウム「移住・家事労働者の権利保障とILO189号条約――アジア、ヨーロッパ、アメリカ、そして日本」(於一橋大学)を開催、連日、100名程度の参加者を得て、知見の共有に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年間の海外現地調査により、アジア、ヨーロッパ、アメリカ、日本の各地域における移住・家事労働者の権利保障をめぐる状況、ならびにILO189号条約がもつ影響、意義、限界などについて、その実態と地域的特徴の把握を着実に進めてきている。その成果を中間報告的にまとめて発信するため、中間年の2016年12月に、国際シンポジウムを2日間にわたって一橋大学で開催した。同シンポジウムは、折しも関東(神奈川県、東京都)と関西(大阪府)の「国家戦略特区」で進められている「外国人家事支援人材受け入れ事業」の課題を、世界各地の現状との比較を通して、参加者とともに討論する機会ともなった。とりわけ、2日目の午後に、海外から家事労働者の権利保障に取り組む活動家のリーダーたちを迎え、現場における成果と課題に関して、日本側の参加者と意見交換ができたことは、研究成果の社会的還元という点から評価できるだろう。連日、研究者のみならず、労働組合やNGOなどの市民団体を含め、一般市民が多く参加して活発な意見交換が行われた。 また、基調講演者に、女性労働とILOの歴史にくわしいアイリーン・ボリス教授(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)を迎えることで、189号条約と移住家事労働者の現状を20世紀初頭にまで遡って検討し、歴史的に位置づけることができ、期待された効果を得ることができた。ボリス教授をはじめ、同シンポジウムに参加した海外参加者より、本研究の意義を高く評価していただいた。以上により、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
国際シンポジウムでの中間報告を通して明らかになった残された課題に取り組むため、研究分担者各自が補充現地調査と研究を進め、最終報告書を作成することが、3年目の大きな課題である。この報告書をもとに、単行本の刊行を目指す。 また、本研究の知見を国内外で共有できるように、成果発信の方法を工夫していく。具体的には、国際シンポジウムの2日目パネル・ディスカッションの記録を『労働法律旬報』(4月号・5月号)に掲載する。このほか、アメリカ・メリーランド大学グローバル移民研究センターでフランスでの調査に基づいた報告(伊藤)、日本フェミニスト経済学会での日本の事例報告(定松)のほか、国内外で積極的に成果発信を行う予定。
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