研究課題/領域番号 |
15H02605
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
定延 利之 神戸大学, その他の研究科, 教授 (50235305)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | つっかえ / 非流ちょう性 / 発話 |
研究実績の概要 |
今年度は、つっかえという現象を、発話の(非)流ちょう性という根本的な概念の中で位置づける理念的な作業と、つっかえ現象の通言語対照のための基礎データの一部を収録する記述的な作業を並行しておこなった。 前者の作業によって示すことができたのは、つっかえが驚きやためらいといった話し手の態度の現れと解釈されるには、話し手に語音や語アクセントに関する一定のスキルが必要であるということである。ただし、その作業は、日本語の日常的な発話についての非流ちょう性の観察記述を前提とするものであった。得られた成果は日本語文法学会でのパネル、日本音声学会でのワークショップの企画などで発表し、さらに、言語とコミュニケーションに関する考察をまとめた著書という形で発表した。また、これらの成果を日本語教育に応用する可能性についても見解をまとめて発表した。 後者の作業では、日本語と同じ膠着語として、韓国語・タミル語・トルコ語・ハンガリー語、そして屈折語ながら膠着語的性質を持つ言語としてシンハラ語を選び、対面式録音ブースという同じ環境での会話を音声・動画の形で収録し、得られた発話をもとに、そこに見られるつっかえを対照した。その結果、ハンガリー語を例外として、これらの言語に共通する性質(語中での延伸型続行方式のつっかえが珍しくない)を抽出することができた。また、その過程で、通言語的な国際シンポジウムを開催し、世界の研究者間で人的ネットワークを構築できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
各言語の現地での自然会話調査の前に、対面式録音ブースという静謐性の高い実験室的環境で、相手の発話に妨げられることなく、各話者の発話音声を確実に収録し、それを動画も含めて丹念に、言語ごとに、複数の母語話者の目と耳で観察したことは、一見迂遠な作業に思えたが、これによって語中の延伸型続行方式というつっかえの共通パタンを抽出できたことは、大きな成果であり、このプロジェクトの基盤を形成する作業として、申し分のないものであったと感じている。この成果は、単に膠着語ならではの傾向を明らかにしたものではなく、非膠着語の発話におけるつっかえとの対比や、例外となったハンガリー語に対するさらなる調査という次の研究ステップを自然に招いてくれるものである。
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今後の研究の推進方策 |
理念面としては、意味あるコミュニケーション行動として解釈されるには一定のスキルを要するという、つっかえに関して得られた知見は、つっかえに限らず、メタ発話全体について言えることではないか、さらに検討したい。また、つっかえという現象をコミュニケーション全体の中で位置づけるために、調音から文法、発話行為までを見据えた総合的な(非)流ちょう性の考察を進めたい。 記述面としては、今年度は対比のために、英語や中国語といった非膠着語の発話データも対面式録音ブースで収録し、つっかえに関する膠着語の性質をさらにはっきりさせたい。さらに、例外となっているハンガリー語についても追加データをとり、この原因を検討したい。 得られた成果は口頭発表や論文の形で発表するとともに、ワークショップなどの開催も計画したい。
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