研究課題/領域番号 |
15H02610
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
近藤 二郎 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70186849)
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研究分担者 |
前川 佳文 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, 研究員 (80650837)
馬場 悠男 独立行政法人国立科学博物館, その他部局等, 名誉研究員 (90049221)
中井 泉 東京理科大学, 理学部第一部応用化学科, 教授 (90155648)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | エジプト / 新王国時代 / ネクロポリス・テーベ / 岩窟墓 / アメンヘテプ3世 / 再利用 / ウセルハト / コンスウエムヘブ |
研究実績の概要 |
エジプト、ルクソール西岸アル=コーカ地区で、平成29年12月~平成30年1月に、さらに平成30年3月の2回にわたり調査を実施することができたことで、前年度同様、研究を進展することができた。当該地区には、第18王朝アメンヘテプ3世治世末期の高官ウセルハトの墓(TT47)の大規模な前庭部を中心として、数多くの岩窟墓が存在している。しかしながら厚い堆積砂礫に覆われていたため、未発見の岩窟墓が存在していることが想定された。これまでの調査によって、ウセルハト墓の前庭部の南側からKHT01とKHT02(コンスウエムヘブ墓)が、そして前庭部北東部からKHT03(コンスウ墓)の3基の岩窟墓を新たに発見することができ、従来の当該地区における岩窟墓の立地に関して新知見を売ることができた。 平成29年度の調査によって、さらにKHT02(コンスウエムヘブ墓)前庭部の南側とTT47(ウセルハト墓)の前室南側上部の2か所において、新たな岩窟墓の存在を確信する箇所を確認することができた。これら2か所には、周辺の岩窟墓の状況から、いずれも第18王朝トトメス4世時代に属する岩窟墓の存在が予想される。そのため今後の調査により、この地区における岩窟墓の造営の変遷が一層明確になることが期待される。 平成28年度に実施した大規模な堆積砂礫の除去作業によって出土した膨大な量の葬送用コーンの分析を通じて、当該地域における未発見の岩窟墓の複数の所有者の推定を可能とすることができた。これらの成果をまとめ発表することができた。 平成29年度には、KHT02(コンスウエムヘブ墓)を中心として、岩盤工学の専門家と壁画の修復家の協力を受け、岩窟墓内部の壁面の保存修復作業を重点的に実施し、大きな成果をあげることができた。この結果、今後の岩盤脆弱で発掘作業が困難な部分の調査に対する目途を立てることを可能にした点でも意義は大きいと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発掘調査地区であるルクソール西岸アル=コーカ地区に位置するウセルハト墓(TT 47)とその周辺の岩窟墓群の調査は、当初は厚い堆積土のために時間を多く費やすこととなったが平成28年度に比較的長期の発掘調査を実施することによって、これまで明らかではなかった地下に埋設されていた未発見の岩窟墓の位置や方位が具体的に明らかになることで、当該地区における岩窟墓の様相について新知見を得ることができた。 その結果、新王国第18王朝前期のハトシェプスト女王時代からアマルナ時代直前の第18王朝後期末のアメンヘテプ3世時代における岩窟墓の建設の変遷とアマルナ以降のラメセス朝(第19・20王朝)時代における岩窟墓の再利用の問題を検討する上で、資料の蓄積があった。 また、今年度は岩盤の補強や岩窟墓内部の壁面の保護、さらには岩窟墓内壁画の保存・修復作業を総合的に実施することで、次年度以降の発掘作業をより計画的に進めていくことを可能とした。 当該地区における岩窟墓は、新王国第18王朝時代からラメセス朝(第19・20王朝)時代にかけて密接して存在しているが、それらひとつひとつの岩窟墓を詳細に検討することでどのような過程で岩窟墓の造営がおこなわれていったかを明らかにしていくことができ、この地域における変遷をまとめることで、新王国時代のネクロポリス・テーベにおける岩窟墓の造営の背景を語ることができるとの確信を得ることができた。 発掘調査で得られた土器や葬送用コーンなどをまとめることで、この地区の岩窟墓利用の詳細をも明らかにすることができたことなどが理由である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策としては、従来の発掘調査を継続して実施することで、当該地域における岩窟墓群の実態をより明確にしていく。各岩窟墓の観察を一層細部にわたるまで実施することで、より詳細な造営時期の判定を実施していく。 ウセルハト墓(TT47)の入口部の岩盤の強化を実施し、前室に堆積している天井部の崩落大礫や砂礫の除去をおこなうことで、未完成であるウセルハト墓がどの程度まで造営作業が実施され、どの段階で放棄されたかを明らかにしていきたい。 また平成29年度に明らかになった調査区南側部分に存在が想定される新王国第18王朝トトメス4世治世の岩窟墓の様相を明らかにすることで、当該地区における岩窟墓造営の実態を一層明らかにしていきたい。 調査対象地域であるルクソール西岸アル=コーカ地区は、数多くの新王国時代の岩窟墓の存在する地域であるが、岩窟墓の造営されている岩盤は、質的に極めて脆弱であり、しばしば発掘調査が困難な点が多い。そのため、調査においては積極的に岩盤工学や保存修復、保存科学などの専門家の協力を得て、安全な環境を維持しつつ、発掘作業を積極的に取り込んでいく。 発掘調査をするだけではなく、今後の遺跡の保存と活用を崩十分考慮していくために、エジプト考古省当局と常に密接な連携・協議をおこなうことで、遺跡の保存・修復、および安全管理などにおいても十分に取り組んでいきたい。そのために、遺跡周囲の砂礫の崩落を防ぐための石積みの構築、夜間の管理のための照明施設の整備なども調査研究と併行して実施していく。
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