研究課題/領域番号 |
15H02630
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
折橋 裕二 東京大学, 地震研究所, 助教 (70313046)
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研究分担者 |
市原 美恵 東京大学, 地震研究所, 准教授 (00376625)
安間 了 筑波大学, 生命環境系, 講師 (70311595)
角野 浩史 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (90332593)
新正 裕尚 東京経済大学, 経営学部, 教授 (60312013)
中井 俊一 東京大学, 地震研究所, 教授 (50188869)
三部 賢治 東京大学, 地震研究所, 助教 (10372426)
遠山 知亜紀 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球内部物質循環研究分野, ポストドクトラル研究員 (30649273)
高久 雄一 公益財団法人環境科学技術研究所, 環境影響研究部, 主任研究員 (40715497)
瀬野 徹三 東京大学, 地震研究所, 名誉教授 (10216567)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | チリ弧 / 沈み込み帯 / 南部火山地帯 / 島弧火成作用 / 脱水融解作用 / マグマ成因論 / 断裂帯 / 線状変質帯 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,沈み込む海洋プレート内に発達した線状断裂帯(リソスフェア深部まで変質帯が発達)が島弧(大陸弧)火成作用を定常よりも活発化させるという作業仮説を基に,盤石な地質学,地球化学および地球物理学データから実証することである.先行研究では,チリ南部火山帯の大陸弧沿いにSBインデックス(部分溶融度を示すファクター:Onuma and Lopez-Escobar, 1987)が波状振幅することを示し,チリ弧に沈ん込む海洋リソスフェア内の複数の断裂帯直上の火山で最大になることが指摘された.このSBインデックスの変化は,チリ南部火山帯の火成作用における部分溶融度の変化を示し,振幅が最大になる火山直下の沈み込んだ海洋リソスフェア内の断裂帯は完全に断裂し,それに沿って下位のアセノスフェアが上昇するため島弧火成作用における部分溶融度が上昇したと解釈した(Onuma and Lopez-Escobar, 1987).そこで,本研究ではチリ弧に沈み込む海洋リソスフェア内断裂帯のうち,SBインデックスが最大振幅となる4つの断裂帯に着目し,Valdivia FZとFZ43周辺の8火山については平成26年度において,Guafo FZ周辺の8火山については平成27年度に火山岩試料の系統サンプリングを行い,現在までにおいて全岩化学組成分析は完了している.平成28年度はFZ46A周辺のヤンテレス火山,メリモジュ火山,メントラット火山,パレナ火山群,カイ火山,モカ火山の6火山について,地質調査および第四紀火山岩の系統サンプリングを行った.これら火山については,陸路からのアクセスが極めて困難なため,ヘリコプターをチャーターして実施した.これにより,平成28年度は220試料,0.7トンの火山岩岩石試料の採取に成功し,この3年間で目標としたチリ南部火山地帯35火山すべてからの系統サンプリングが完了することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画通り,チリ南部火山帯35火山すべてから第四紀火山岩の系統サンプリングを実施することができた.ひとつの研究グループが成し遂げたサンプル・コレクションとしては,これまで前例がなく,同地域における盤石な火山岩の全岩化学組成データを構築することが可能となった.これにより,本研究計画の柱である地質調査班のすべてのミッションは100%遂行できたと言える.火山地形解析は,デジタル地形データ(MORVOLC: Grosse et al., 2009; 2012)を用いてチリ南部火山帯35火山について実施し,その結果の一部を公表化した.高圧実験に関しては,フロゴファイトとフェンジャイトにおける元素分配決定の実験を実施したが,局所分析に十分な大きさに鉱物成長させることができず,実験方法の抜本的な改良が必要となった.また,新たに親水性元素として着目されるタリウムやアンチモンについても定量分析を実施し,島弧火成作用におけるこれら元素挙動を明らかにする予定である.本年度からは室内における化学分析,高圧実験および火山地形解析を中心に研究を継続する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の海外調査(チリ)で採取した火山岩試料はすでに研究室に到着している.「岩石化学分析班」は,これら試料の薄片作成,鏡下観察を実施し,岩石試料を選定した後,随時,XRFを用いて全岩化学分析を実施していく予定である.平成26,27年度に採取した火山岩試料については,すべてにおいて全岩化学分析は完了している.今後は,火山毎の火成活動ステージを把握するため,K-Ar年代測定を実施し,チリ南部火山帯における火成作用の時空変遷を明らかにしていく.一方,ホウ素定量分析に関しては,研究計画において放射化分析による定量分析を実施する予定であった.しかし,原子炉の再稼働が遅れ,現在において,まったく定量分析ができていない状態である.昨年度,ICP-MSによる溶液法でホウ素定量を試みたが,ブランクの問題で低濃度試料については,そのメモリー効果で失敗している.今年度,稼働予定との情報もあるので,再稼働となればこれを中心として実施していきたい.また,ホウ素と同様に親水性元素であるアンチモンやタリウムについても新たに注目し,これらの定量分析をすることでホウ素の代用としてマグマ成因論に活用することを計画している.同元素の定量分析法は昨年度から新たに加わった研究分担者(高久)により確立されている.今年度はホウ素定量と同時にこれら親水性元素の定量分析を行い,マントルウェッジで起こる加水融解の生成プロセス解明に向けて取り組む予定である.
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