研究課題
本研究では、ネパール・ポカラ地区で生じている地盤陥没現象を対象に、地盤侵食メカニズムに関する申請者らの知見を動員し、開発途上国内で実施可能でかつ先進的な現場調査技術を活用して、地盤の特性が同地区の地盤災害リスクに及ぼす影響を調べている。平成28年度は、主にAlmara地区の地盤陥没の調査を実施した。前年度に引き続き、表面波探査による対象地域の地盤構造の可視化とUAVによる地表面形状の変化を調べた。特に表面波探査においては、本研究の開始当初から同一測線で定期的に計測を行っている。現時点においては、調査開始から表面波探査結果に顕著な地盤変状や内部浸食の形跡は確認されていないが、S波コンターの緩やかな変化が地下空洞と関連がある可能性が考えられている。本年度は、地盤強度を計測するためミニラムを新たに現場に導入し、貫入試験を実施した。また、地下水流の音を面的に計測することにより、地下空洞の形成との関連性を調査した。さらに、地盤陥没地域の周辺やKali Kohla 河岸の露頭の観察を行い、当該地域の地形地質的背景や地質形成史から、地盤陥没の発生機構を検討した。現地の堆積物と地盤陥没の分布状況に着目すると、従来想定していた地下水流による内部侵食に加え、完新世初期の旧Kali Kohla河道でのシルト層洗掘や、シルト層中の砂層で生じるパイピングが、地盤陥没の遠因である可能性が高まった。平成29年度は、本プロジェクトの最終年度であるが、前年度までの調査を継続すると共に、現地踏査結果と併せて地盤陥没メカニズムと対応策に関する提言を取りまとめる予定である。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度までのポカラ・Armala 地区における地盤陥没調査は、表面波探査、UAV、ミニラム、地中音探査のツールを駆使して、地盤の内部侵食や水みちの探査を行ってきた。また、地盤陥没地域の周辺やKali Kohla 河岸の露頭の観察を行い、当該地域の地形地質的背景や地質形成史から地盤陥没の発生機構を検討してきた。現地の堆積物と地盤陥没の分布状況に着目した結果、従来考えられていた地下水浸透とシルト層のパイピングという内部侵食機構に加えて、完新世初期の旧Kali Kohla 河道での地下水によるシルト層洗掘や、シルト層中の砂層で生じるパイピングが、地盤陥没の遠因である可能性が高まった。また、2013 年以前に実施しているKali Kohlaの河川改修工事での河床盤下げによって、Kali Kohlaの河川水位がシルト層上面より大きく低下したことも誘因の一つであり、特にパイピングを生じやすい砂層よりも水位が低下したことで、地盤陥没が促進したと考えられる。本プロジェクト開始から、地盤陥没の発生は小康状態にあり、探査結果からは明確な地盤浸食の傾向は現れていない。しかし、水みちの分布が浸食箇所と関連する結果も得られている。
平成29年度は、現場調査としては、これまで実施してきた探査を継続する。一方、現地踏査から推定される調査地域の旧河道の存在について検証することも必要である。手法としては弾性波探査により、想定される河道に直行方向の測線で実施する予定である。従来の表面波探査と異なり、鉛直方向の変化を捉えにくいが、地層の連続性や境界線、水位線などが把握できると期待できる。また、これまでは陥没発生地域(Kali Kohla右岸)のみで探査を実施してきたが、谷全体の浸食対象のシルト層の厚さ、基盤岩の深さなどを、簡易的に測定できる電気探査(鉛直探査)を実施する。また、これまでは地盤陥没地域に焦点を当てた調査を実施してきたが、平成29年度はミニラムによる貫入試験を液状化対象地区でも実施し、当該地域の液状化リスクを把握する。最終的に、陥没地域と液状化対象地域に対して将来的な地盤災害リスクの総合評価を行い、適切な対応策を提案する。
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