研究課題/領域番号 |
15H02645
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
熊谷 朝臣 名古屋大学, 地球水循環研究センター, 准教授 (50304770)
|
研究分担者 |
松本 一穂 琉球大学, 農学部, 准教授 (20528707)
永井 信 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球表層物質循環研究分野, 主任研究員 (70452167)
小田 智基 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (70724855)
市榮 智明 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 准教授 (80403872)
檜山 哲哉 名古屋大学, 地球水循環研究センター, 教授 (30283451)
藤波 初木 名古屋大学, 地球水循環研究センター, 助教 (60402559)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | フラックス / 土地利用変化 / 物質循環 / 気候変動 |
研究実績の概要 |
世界のヤシ油需要は常に増加しており、特に東南アジアにおいて、アブラヤシ農園が急速に拡大しており、今後さらに加速すると予測されている。アブラヤシ農園への土地利用変化は、熱帯林破壊の元凶であり、生物多様性や地域環境に及ぼす悪影響が指摘されているが、その定量的評価は絶対的に不足している。一方で、ヤシ油生産国にとってアブラヤシ農園は国全体にとっても地域経済にとっても重要な収入源であり続けている。現在のアブラヤシ農園拡大の速度から考えて、ヤシ油生産と環境保全のバランスを取る合理的な理由を見つけることが喫緊の要事である。 そこで本研究の目的は、マレーシア・ボルネオのアブラヤシ農園拡大域においてアブラヤシ農園造成が地域環境に及ぼす影響を明らかにし、また、同時にアブラヤシの生理生態学的計測からその生産性の環境応答特性をも明らかにして、環境保全とヤシ油生産のバランスを考えたアブラヤシ農園管理のための科学的情報を提供することである。そのための基礎データの取得のため、 マレーシア・ボルネオに、本申請で新設1ヶ所と既設2ヶ所の計3ヶ所のアブラヤシ農園サイトと、既設の天然林サイト1ヶ所に「熱・水・二酸化炭素・揮発性有機化合物交換過程」観測サイトを設定し、時間分解能の高い群落光合成速度・群落蒸散速度をはじめ種々の大気-樹冠間物質交換速度を観測する。アブラヤシ農園サイト・天然林サイトそれぞれで、微気象・環境因子観測を併せることで交換速度の環境因子依存特性を決め、天然林からアブラヤシ農園への転換によって地域水・炭素収支がどう変わり得るのか検討するためである。既設サイトでの間の観測は順調に実行されている。この観測の主軸は乱流変動法による大気-樹冠間フラックス観測であり、樹冠を突き抜ける観測タワーの設置が大前提となる。今年度の実績は、この新設サイトでの観測タワーの設置完了と考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
昨年度上半期で完了する予定であった観測タワー設置が、設置業者の選定や設置場所の選定、その法律的問題の解決、マレーシア側の(国内)経済状況(マレーシア貨幣の価値の急変動)といった予期せぬ複合的問題により、昨年度末までずれ込んでしまった。本研究の大部分の研究活動はタワー観測に依っている。
|
今後の研究の推進方策 |
以下はフラックスタワーの完成の後、昨年度適宜開始・実行される予定であった計画である。しかし、タワー設置に手間取り、実際に完成したのは昨年度末であったため、昨年度予定していた計画は、全く実行されていない。よって、ここでは昨年度予定していた計画を履行すべく、これを再度示す。 アブラヤシは、その特異な葉群構造から個葉レベルのガス交換計測の方法が確立されていない。ここでは、携帯型光合成蒸散測定装置のチャンバー形状に工夫を加えながら方法論を検討する。また、樹幹肥大成長特性、樹体内部の水分通道特性が全く未知である。そこで、木部組織・維管束空間分布の顕微鏡レベルの観察を行い、肥大成長特性と樹液流の樹体内空間分布を明らかにする。加えて、アブラヤシ肥大成長と果実生産の直接計測をもとに、アブラヤシ農園のバイオマス・ヤシ油生産の時系列を得る。この結果は、タワーによる群落光合成速度データと合わせて解析に供せられる。直径成長からバイオマス生産を算出するためのアロメトリー式は、アブラヤシでは未だ精度の良いものが存在しておらず、特に、品種・年齢別、光合成生産物の果実への配分、地下部への配分など、全く未知な部分を含んでいる。よって、成長モデル構築の必要に応じて各年齢のアロメトリー式を地下部を含めて作成する。全体の炭素収支の確定のためには、この地下部への配分に関する情報が不可欠となるが、二酸化炭素フラックス観測の内、土壌呼吸については、リター分解過程(既に観測中)と根呼吸を分離した形で計測する。アブラヤシ農園の土壌炭素動態は、さらに未知な点が多く、原植生からアブラヤシ農園へ転換した際に炭素収支がどう変わるのかを考える際に必要不可欠なデータである。
|