研究課題
世界のヤシ油需要は常に増加しており、特に東南アジアにおいて、アブラヤシ農園が急速に拡大しており、今後さらに加速すると予測されている。アブラヤシ農園への土地利用変化は、熱帯林破壊の元凶であり、生物多様性や地域環境に及ぼす悪影響が指摘されているが、その定量的評価は絶対的に不足している。一方で、ヤシ油生産国にとってアブラヤシ農園は国全体にとっても地域経済にとっても重要な収入源であり続けている。現在のアブラヤシ農園拡大の速度から考えて、ヤシ油生産と環境保全のバランスを取る合理的な理由を見つけることが喫緊の要事である。そこで、当該年度の目的は、マレーシア・ボルネオのアブラヤシ農園拡大域においてアブラヤシ農園造成が地域環境に及ぼす影響を明らかにし、また、同時にアブラヤシの生理生態学的計測からその生産性の環境応答特性をも明らかにすることであった。コアサイトにフラックスタワーが完成し、乱流変動法によるフラックス観測システムが完成したことで、実際の観測が開始、順次、アブラヤシと大気との間でのエネルギー・物質交換特性が明らかとなってきた。一方で植生と大気の相互作用を調べるためのシミュレーションモデル(SVAT)の構築とその数値実験に関する成果を挙げている。SVATとその入力値となる上述の貴重なデータは、アブラヤシ農園造成と環境変化の関係を調べるために利用される。また、もう一方の東南アジアを代表するプランテーション種であるゴムノキの生産性向上を検討することができるシミュレーションモデルの作成に成功しており、さらに、天然ゴム生産・ゴムノキ個体群動態までもシミュレート可能なモデルの構築完了も間近である。
2: おおむね順調に進展している
一昨年度で完了する予定であったフラックスタワー観測システムの完成が遅れていたが、昨年度でシステムのほとんどが完成し、順次観測が始められた。観測は順調であり、非常に興味深いデータが確保され始めていることから、昨年度の区分「遅れている」を今回の区分に改善することができたと考える。
アブラヤシ個体・林分の生理生態学的、大気-樹冠物質交換・微気象形成に関する研究は、これまでほとんど成されていない。炭素固定能、個体・林分成長、個体内産生物配分、個体群動態に関するデータはほとんど無いに等しい。よって、これらのデータを取得すること自体が、学術的にも実用的にも極めて価値が高いので、データ確保に全力を尽くす。また、申請者グループは本研究サイトの近くにある天然林の長期データを所有しており、アブラヤシ農園の造成前後の環境変化を理想的な形で比較することができるので、データが整い次第、このような比較研究を行う。植生と大気の相互作用を調べるためのシミュレーションモデル(SVAT)が既に完成している。SVATとその入力値となる上述の貴重なデータは、アブラヤシ農園造成と環境変化の関係を調べるために利用される。また、SVATをアブラヤシ用にカスタマイズして気候や農園管理等の条件が変わった時にヤシ油・バイオマス生産がどう変わるかシミュレートし、アブラヤシ農園管理の最適化に繋げることに挑戦し始める。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件)
Journal of Hydrology
巻: 544 ページ: 10-20
Water Resources Research
巻: 52 ページ: 1427-1445
10.1002/2015WR017983
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