研究課題
本研究では、近年、豚とヒトの豚レンサ球菌(Streptococcus suis)感染症が多発しているベトナムを調査対象地域として、これと対比する日本の試料も収集して、悉皆的に口腔内微生物動態を明らかにし、本病防除のメルクマール(発症の予兆を示す基準値)を探ることを目的とした。2015.7月および9月に国内の大規模養豚場に出張し、豚だ液試料およびその他の試料合計約150検体を採集、また、2015.10-11月および2106.3月にベトナムへそれぞれ14日および12日間出張し、2カ所ずつの大規模養豚場で国内と同様に豚関連試料を合計して約300検体を採集した。国内については全て健康豚、ベトナムでは主に健康豚でその他に訪問時に発見された病豚数頭からも試料を採集した。国内試料は実験室に持ち帰り、DNA抽出精製・定量後、豚レンサ球菌(Streptococcus suis)のDNAによる定量を行い、高速シーケンサーで配列読み取り後、データ解析を行った。ベトナムの試料につては、ノンラム大学Dr. Haiの実験室を借りて、抽出後、定量した精製DNAを日本に持ち帰り、その後の処理を行った。S. suisのDNA定量については、全てのサンプルで実施したが、健康豚だ液の100%から検出された。また、qualityの高い試料については、16S rRNA遺伝子配列の読み取りを行った。このうち本年は、63検体の配列データについて解析したところ、3検体分のqualityが十分でなく、残りの60検体について解析を完了した。その結果、母豚とほ乳豚との間で高い類似性が見られた。しかし、離乳期を過ぎると細菌叢を構成する菌種の多様性が増した。さらに、国内とベトナムでは、使用されている抗菌薬の違いからか、細菌叢に相違が見られた。
2: おおむね順調に進展している
当初想定していた以上の豚だ液および豚関連試料の収集ができた。収集した試料からのDNA抽出精製についても、条件検討が予想以上に早く完了し、高速シーケンサーでの配列読み取り作業に入れた。しかし、ここで、期待していた程のリードが得られないことが多く、その条件検討に時間を費やした。最終的には、情報解析のパラメーター修正を実施して、期待できる精度の配列情報を得ることができた。16S rRNAメタゲノム解析では、属レベルでの解析は完了したが、属レベル以下についての解析が十分にできていないところがある。特に、レンサ球菌属の中でどの菌種がどのように存在するかの動態解析には、独自にレンサ球菌属のデータベースを構築する必要が生じており、これは初年度に引き続き次年度も実施して構築できれば、正確な菌種の動態が明らかにできると考えており、以上の状況を総合して今年度の達成度は概ね順調であると判断した。
当初の予定通り試料収集は平成27年度と同様に行うが、本年度からは発病豚に重点を置いた試料収集を行う。その後の試料の処理やS. suisのDNA定量、配列解読、メタゲノム解析は、基本的には平成27年度と同様に実施する。得られた成績を総合し、口腔内細菌叢の日齢による推移、同一農家における推移、豚感染症発生頻度による違いをそれぞれ明らかにする。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (9件)
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