研究課題
2016.10月、2017年2月および3月に国内の大規模養豚場に出張し、健康な豚だ液試料およびその他の試料合計約240検体を採集、また、2016.9月および2107年3月にそれぞれ10日間ベトナムへ出張し、2カ所ずつの大規模養豚場で主に病豚とその同居豚のだ液、鼻腔スワブおよび血液試料を合計して約200検体採集した。国内試料は研究室に持ち帰り、その後の処理からDNA塩基配列決定までを行った。ベトナムの試料につては、現地で抽出精製後、簡易定量したDNAを日本に持ち帰った。定量的RT-PCRで、国内・ベトナムの健康及び病豚を含む100%の豚だ液試料からS. suisのDNAが検出された。決定した塩基配列は、分担者の丸山が87検体について16S rRNA遺伝子に基づく細菌叢解析を実施した。その結果、だ液、糞便、環境試料について、試料の種類ごとに主要な細菌属、種構成は異なり、特に環境試料で多様であった。この群集構造は同じ種類の試料ごとに類似しており、クラスターを形成した。さらに、親子関係にある母豚とほ乳豚との間で高い類似性が見られたが、離乳期を過ぎると多様性が増す同ものの同じ成長時期だと類似していた。一方、病気による群集構造への影響は観察されなかった。レンサ球菌91種からなるカスタムデータベースを構築し、種レベルでレンサ球菌22種を検出することができ、中でもS.suisが最優先種として検出され、近縁菌種S.parasuisも優先していた。一方、分担者大澤は、国内健康豚の潜在的S. suis保有状況及び当該菌の薬剤耐性化状況について調査した。その結果健康豚計50頭のうち28頭より分離された47株がS. suisと同定された。これらのうち、51%(24株)がテトラサイクリン耐性遺伝子を有しており、53%(25株)がエリスロマイシン耐性遺伝子erm(B)を有していた。
2: おおむね順調に進展している
国内およびベトナムでの健康豚の試料については、当初想定していた以上の試料収集ができ、病豚試料についても十分な数が収集できた。また、これらの試料から昨年度条件検討した方法により、ほぼ全ての検体から十分な量のDNAが回収でき、そのうちqualityの高い試料に関しては、16S rRNAメタゲノム解析を実施し、さらにレンサ球菌に関して種レベルでの菌種同定も実施できた。以上をまとめると、当初の予定以上の成果が得られているので、qPCRとのデータと整合させ (S.suis/S.parasuis比を用いる)、目的である疾病防除のためのメルクマールを探る、また、その妥当性評価をする基盤はできたものと考えられる。ただしメタ16S rRNA遺伝子解析については、当初の予定成績を上回っているものの、全ゲノムを対象とするメタゲノム解析は実施していないため、今後実施し、現在までに得られたデータの原因、妥当性を考察していく必要がある。以上の状況を総合して今年度の達成度は概ね順調であると判断した。
①豚口腔内試料及び農場環境試料の収集昨年度までに、健康豚および病豚の試料は必要数をほぼ達成したので、平成29年度は病豚試料の補足的な収集に加え、現地の在来豚に焦点を当てた試料収集を行う。在来豚は、カンボジアとの国境近くに多いとされるため、作業の安全性や十分な数の検体採集が可能なのか把握できていないため、まずは現地訪問により研究用試料の採集が可能か視察し、農民との対話を十分行う。農民との対話については、ノンラム大学Dr. Nguyenの協力が得られる確約を取っている。得られた情報を基に、その後、改めて試料収集に向かう。検体の採集は、これまでより難航しそうなことから、新たに中川を分担者に加えて、関崎、大澤、中川、関崎研大学院生、Dr. Nguyen研職員・学生が現地で試料を採集し、抽出・精製・乾燥したDNAを日本に持ち帰る。②メタゲノム解析ベトナムから持ち帰ったDNAから、16S rRNA遺伝子メタゲノム解析を実施する。研究代表者の研究室で情報解析を行える体制が整ったことから、丸山を除いて、渡辺と黒木を分担者に加え、その作業の効率化を図る。昨年同様、Illumina社のMiSeqまたはIon Torrent PGMにて塩基配列を決定し、属レベルでの細菌叢の構成動態や主座標分析により、各試料間の関係付けを行い、最終年度での試料収集作業に備える。③健康豚と病豚の唾液など生体試料中のメタゲノム解析と豚レンサ球菌DNAとの関連性の解析これまで収集し解析した豚口腔内細菌叢解析成績について、健康豚と病豚とで比較し、発症豚に見られる特徴を明らかにする。特に、S. suisとS. parasuisの存在比について、発症との関連性を探る。在来豚の検体から得られた成績については、属レベルでの菌叢解析を実施し、最終年度での試料収集作業に備える。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件)
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