生体分子からの機能発現,分散ロボットの相互位置制御,LAN の資源管理,人間社会の選挙など,広範な領域の問題から領域固有の事由を捨象し,内在する分散計算構造に着目すると,分散問題である合意形成問題が共通して出現する.この事実に着目し,巨大分散システムを分散計算能力の観点から統一的に理解すること,すなわち,異なるモデル (仮定) の下で構築される分散計算理論の間の関係を統一的に理解することが一般分散計算論の全体構想である.本研究の主目的は通信機能が分散計算能力に果たす役割を理解することである.たとえば,視覚と移動による通信と無線あるいは有線による通信を比較し,その相違が分散計算能力に与える影響を理解したい.申請者が平成29年度末で定年退職することを想定し,最初の2年間に実施すべき研究として,(a)ロボットに明示的な通信機能を付加することによってもたらされる分散システムの自己組織化能力の変化の解析(b)ロボットの視野半径が分散計算能力にもたらす影響(c)ライトによる通信機能が分散計算能力にもたらす影響の3項目を指定した.実際のところ,(a)は(b-c)を含む一般的な設定であり,(b)と(c)ではより具体的に研究対象が指定されている.申請者が当該年度中に発表した論文のほとんどは上記の研究(特に(a))と関連しているが,ここでは(c)を検討した[雑誌論文1]の結果について以下で説明する.上記の論文では,完全同期,準同期,非同期モデルの下で通信手段としてライトを持つ分散ロボットシステムの分散計算能力を検討しており,(1)色を定数個だけ変化することができるライトを持つ非同期ロボットはライトを持たない準同期ロボットよりも豊かな分散計算能力を持つが,(2)色を定数個だけ変化することができるライトを持つ場合には,非同期ロボットと準同期ロボットの分散計算能力の差は消滅することを示している.
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