研究課題
本研究は代表者・分担者との協働により, 時空間の実データに対して統計モデルを開発・評価し,当該現象の特徴を把握することを目的とする.2017年度では植物の遺伝子間ネットワークの推定, 環境時空間データのモデリング, 色認識空間における楕円の推定等を研究した. 公開された論文の概要は以下の通りである.試験植物 Brachypodium distachyon の 32,000 遺伝子発現について,生育環境が制御されている実験室内で4時間おきに2日間計測した時系列データを3反復計測した.そのうち強発現している 17,000 遺伝子を選別し,昼夜の周期性が明確なものをウェーブレット解析で特定した(3,613遺伝子).それらの遺伝子発現の時系列に時間遅れをもつ説明変数,および自己回帰項も含む回帰モデルをあてはめ,Group SCADに基づくスパース推定を行った.これにより遺伝子間ネットワークを推定し,ハブ遺伝子を特定した.超高解像度土地被覆画像に対し,出力空間の階層的構造と入力同士の従属性を考慮したマルチラベル判別問題をSupport Vector Machine (SVM)ベースの判別器を提案した.すなわち 出力空間の構造を Structured SVM (SSVM) によりモデル化し,更に SSVM の目的関数に予測画像の空間的滑らかさを促進する項を追加することにより,入力空間の空間的従属性をモデル化した.本手法を2種類の土地被覆画像データセットに適用し,従来手法と比較して有意に判別結果が改善されたことを示した.
2: おおむね順調に進展している
2017年度の「研究実績の概要」のほか,下記の研究を推進した.時空間現象の研究として「太陽風が弱い地震の引き金であることのデータサイエンス的検証」について,機械学習の手法を用いると,太陽風はマグニチュード3, 4, 5の全球での地震に影響するが,それ以上の地震への影響は検出できなかった.この論文を投稿し,査読コメントに従って改訂中である.Brachypodium については,distachyon と stacei および2倍体と多倍体について,遺伝子レベルの違いを考察した.またネットワーク推定で得られたハブ遺伝子を改変し,他の植物に導入すると生育に変化がみられることが分かった.現在発表準備中である.企業との共同研究では,色認識を考察した.人間は色ごとに変化に対する検出能力が鋭敏か否かが異なる.そこで色違いの許容度を色認識空間における楕円で表現し,その推定について考察した.また楕円に対応する正定値行列間のリーマン距離やカルバック-ライブラー情報量によりクラスタリングを行った.この結果についても投稿論文を作成中である.
遺伝子ネットワーク推定については,管理された実験室内での植物データに対して妥当な結果であることが確認できた.次に生育環境が刻々と変化する圃場でのモデリングを進めたい.2018年2月に植物の成長の数理モデリングに関するワークショップを九大で開催し,圃場でのスマート植物育成について実績のあるイリノイ大学の研究者を招聘した.次年度は環境要因等および遺伝子発現に基づく圃場での植物成長モデリングについて,本研究班およびイリノイ大学の研究者との共同研究を始める.一方地震と太陽風の研究から,カーネル回帰の変数選択問題が派生した.変数選択をカーネル選択に置き換え,カーネル回帰におけるスパース推定で変数選択を行う手法を考察する.また関連するt-分布に従う誤差にもつ一般化線形モデルに基づく回帰モデルの母数推定の漸近理論をまとめる.また色認識空間における楕円推定と関連した話題について論文出版を急ぐ.
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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