研究課題/領域番号 |
15H02717
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
服部 雅史 立命館大学, 文学部, 教授 (50301643)
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研究分担者 |
鈴木 宏昭 青山学院大学, 教育人間科学部, 教授 (50192620)
三輪 和久 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (90219832)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 思考 / 問題解決 / 創造性 / 推論 |
研究実績の概要 |
本年度は,合計9個の研究を実施した。相互作用(I)プロジェクトは,創造的過程における顕在認知と潜在認知の相互作用を明らかにするため,5個の実験を実施した。実験1は,洞察問題解決における閾下プライミング効果に関係する要因を探るため,覚醒(脈拍変動),注意抑制(フランカー課題),メタ認知(FFMQ)を測定して,日本とイタリアで実施した。実験2は,注意抑制維持の効果を検討した。実験3は,注意抑制,反応抑制,抑制切替の効果を検討した。以上より,注意抑制が強いと覚醒時に負のプライング効果を生むことが明らかになった。 実験4と5は,説明転換,すなわち対象理解の非連続的変化における顕在・潜在認知の関係を明らかにするため,物語文を用いてトップダウン処理(主体的・省察的な思考)とボトムアップ処理(文章の受動的処理)の活動量を独立に操作した。その結果,一方の処理だけでは説明転換は促進されないが,両方の処理が揃うと転換の準備が整う可能性が示唆された。 潜在表象(R)プロジェクトは,潜在認知がアクセス可能な表象を明らかにするため,3個の実験を実施した。実験4では,洞察問題解決において,閾下プライムと二重課題による負荷の2要因を操作したところ,無負荷でプライムを与えた場合にパフォーマンスが最も高くなり,潜在情報が顕在情報と同じ貯蔵庫を用いている可能性が示唆された。実験5は,閾下プライムを継時呈示することにより,潜在情報が上書きされることなく時間的に統合される可能性があることを明らかにした。実験6は,異なる方略が必要な洞察問題を繰り返し実施することで,無意識的コントロール(洞察を得やすくする構えのようなもの)の存在とその学習について明らかにした。 研究法開発(M)プログラムは,日本語データベースから,洞察性の高い日本語版遠隔連想課題のセットを自動的に作成する方法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,創造的活動における顕在認知と潜在認知の関係を明らかにするため,洞察問題や仮説形成問題を用いて,潜在情報や認知状態とパフォーマンスの関係について実験的にアプローチしてきた。洞察問題解決に関しては,現在までに,脱抑制(注意抑制や反応抑制の無効化),低覚醒,疲労,外向的・開放的性格などが閾下プライミング効果に複雑に関係していることが明らかになった。対象の理解や説明に関しても,ボトムアップ処理とトップダウン処理の両者の関係は明確にはなっていないが,複雑に関係していることが示唆された。以上は,必ずしも当初予測していた通りの結果ではないが,結果の全体的な傾向は初期段階で想定していた考えと整合的であり,全体的な研究方針に変化を発生させるものではない。 現在までの研究成果により,洞察問題解決において潜在情報(閾下プライム)が認知や行動に影響を与えるかどうかという当初の問いが,潜在情報が負の影響を与えるのはどういうときかという問いに変わってきた。潜在情報の貯蔵庫として特別なものを想定する必要がない可能性が示唆されており,こうした結果は,今後の研究の方向性を決めるための有力な材料となる。また,潜在情報の貯蔵庫が異なる複数の継時的情報を保持できるという知見は,問題解決の他の側面についても潜在情報が影響を与える可能性を示唆していることから,今後の研究の新しい展開のヒントとなる。さらに,洞察の「構え」の学習,いわばメタ学習についての研究から,これまでの認知研究が扱わなかった側面について新しい知見を得ることができた。 こうした研究成果は,いずれも今後の新しい研究展開を示唆するものである。以上を総合的に勘案すると,研究の進捗状況は,おおむね順調であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究成果によって生じる今後の研究計画の大きな変更や研究遂行上の問題点はない。次年度以降は,以下のように研究を推進する予定である。 Iプロジェクトは,洞察問題解決において潜在情報が負の影響を与える要因を探索的に探るこれまでの実験から,そのしくみについての仮説を検証するための実験に段階的に移行していく。現在のところ,仮説的概念として,「意識を伴わないメタ認知的コントロール」と「選択的注意抑制」を考えており,たとえば,実験参加者が閾下の「見えない」ヒントを見た後で「実はヒントが呈示されていた」ことを知ると,問題解決パフォーマンスは変わるかどうかを実験的に確認する。こうした盲目的注意(あるいは盲目的意図想起)とでも呼ぶべき現象は,もし仮説が正しければ観察されるはずである。また,「選択的注意抑制」が解決の妨害を起こすのであれば,閾下プライムが正解に近い場合は妨害が起こるが,無関連情報の場合には起こらないはずであるので,これを実験で確認する。 さらに,説明転換における顕在・潜在認知処理の相互作用を検討するため,ボトムアップ,トップダウンという2つの処理を統合するための操作(ヒントの直接教示など)を加える方向性と,類推的プライミングにより説明転換を促進させる方向性(プレ課題と本課題の類似性の操作や両課題の関連性に関する気づきを変数とするなど)の2つの計画を実施する。 Rプロジェクトは,ワーキングメモリへの負荷による潜在情報利用の妨害効果が,洞察問題解決以外の課題(語彙判断課題など)でも見られるかを検討する。また,潜在情報が問題の解の発見に静的に参照されるだけでなく,メタレベルで問題解決方略にも影響を与えるかどうかを検討する。 Mプログラムは,引き続き洞察性の高い日本語版遠隔連想課題を自動作成する方法を洗練させ,実用的な課題セット作成に向けて試行錯誤を重ねる。
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