研究課題/領域番号 |
15H02741
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
柳田 康幸 名城大学, 理工学部, 教授 (70230266)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 拡張現実感 / バーチャルリアリティ / 渦輪 / 嗅覚ディスプレイ / 触覚ディスプレイ |
研究実績の概要 |
空気を媒体とした触覚刺激と嗅覚刺激を利用し,視覚に依存しない拡張現実感の実現に寄与する基盤技術の構築を目指す.その一環として,本年度は渦輪による香り搬送のための空気砲設計パラメータについて検討した.従来研究における未解決問題として渦輪軌道の安定性および渦輪による香り搬送効率の向上が挙げられており,その解決を図るべく,空気砲開口部形状による渦輪軌道安定性への影響を実験的に調査するとともに,開口部付近へ局所的に香りを充填することによる搬送効率に対する効果を流体シミュレーションにより調査した. 開口部形状が軌道安定性へ与える影響を調査する実験は,フォグを空気砲内部に充填し,射出後の渦輪軌道を映像上で追跡する方法で行った.平板に開口を設けた空気砲と比較して,開口部を前方に突き出した形状,すなわち開口へ向けてなだらかに断面積が減少していく形状では,若干軌道安定性が向上する傾向が観察された.しかし,試行毎の測定結果に大きなばらつきが見られ,有意な知見として結論づけるには至っていない. 一方,香りを開口部付近に局所充填することにより香り搬送効率,すなわち空気砲から射出される香気成分全体のうち渦輪本体に含まれる香気成分の割合が高くなることは,平板開口形状の空気砲に香気を導入するスリット機構を試作し,経路上の残留濃度測定実験を行うことによって確認された.さらに,軌道安定性への効果を検討している,開口部を前方に突き出した形状の空気砲においても,開口部先端付近へ局所的に香りを充填することにより,香りが効率的に渦輪に巻き込まれ,結果として香り搬送効率の向上に寄与することが流体シミュレーションにより予測された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
搬送効率向上に関する知見の蓄積は,概ね順調である.平板開口を持つ空気砲については開口部エッジ裏側へ香気を導入するスリット機構を製作しその効果を検証したところ,流体シミュレーションで予測された通り,経路上に残留する香り濃度を抑制する効果が確認された.ただし,量的にはシミュレーションで予測されたほどの効果は得られておらず,高濃度の香気をより少ない体積だけ充填する方式の検討が必要である.また,並行して進めている軌道安定性向上のために,開口部を前方に突き出した形状の空気砲について,同様に局所充填効果をシミュレーションにより予測し,開口部先端部付近への局所充填が香り搬送効率向上に寄与することを予測する結果が得られた. 一方,渦輪軌道安定性の確保は本研究の目的を達成する上で必要不可欠な要件であるが,本年度検討した開口部形状の改良だけでは有意な安定性向上に関する知見を得られるに至っていない.当該実験では,現有装置であるクランクピストン方式による空気砲駆動を行ったことが予期せぬ振動・揺動をもたらし,軌道安定性に悪影響を及ぼした可能性も考えられる.駆動方式の改善も含めた検討が必要である.
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今後の研究の推進方策 |
まず,軌道安定化をもたらす設計指針に関する知見を得ることが当面の課題である.これまで,空気砲から射出される空気の体積およびその速度に自由度を持たせるため,クランクピストンによって機械的に空気砲背面を押し込む方式を利用してきたが,この機構が空気砲システム全体に及ぼす振動等の影響も考慮する必要がある.空気押し込みの手段としてスピーカを利用し,電圧制御により滑らかに駆動することにより,機構に起因する振動は抑制できると考えられるため,駆動機構の変更を検討する. 並行して,高濃度の香気をごく少量局所的に開口付近へ充填するための具体的な手法についての検討を進める.高濃度を実現するには開口のなるべく近くで霧化により極小液滴を発生させる方式が有望であるが,霧化の際の液滴飛散方向が局所充填という目的に適合するかどうかは未知数であるため,霧化による様子を観察し,適切な充填機構を検討する.
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