空気を媒体とした触覚刺激と嗅覚刺激を利用し,視覚に依存せずに場の空気を演出する拡張現実感に寄与する基盤技術の構築を目指した.これまでの研究により,香り搬送を行う渦輪の軌道安定性確保と香り搬送の局所性確保が必要不可欠であることが判明したため,本年度はこの点に集中して研究を行った. まず,軌道安定化を妨げる要因として,使用していたピストン・クランク機構による機械的駆動の影響が考えられたため,圧搾空気とバルブを利用した空圧駆動方式を試行した.機械的駆動方式と比較して有意な軌道安定性の向上は確認されず,機械的駆動が安定性低下の要因ではなかったことが確認された.さらに,空圧駆動時の空気砲の筒の長さの影響を調査したところ,ある程度以上の筒の長さを確保しないと渦輪が形成されず,従来型空気砲を空圧駆動する方式は空気砲のコンパクト化には不向きであることが確認された. 香り場の形成手段として,空気砲開口部を多数の小開口で合成的に構成する新たな方式を立命館大学・野間春生教授と共同で発案し,クラスタ型ディジタル空気砲 (CDA) と名付けた.この方式は原理的に従来型空気砲のさまざまな制約から解放される可能性が期待されるものの,全く新しい方式であるため,その最適な駆動パラメータは未知である.まず,渦輪を効率的に構成する開口部流速分布を流体シミュレーションにより検証し,従来型の単一開口を持つ空気砲開口部と同様の流速分布を含む数種類の流速パターンについて,渦輪の生成と挙動を確認した.また,初期の実験により,CDAを同じパラメータ(圧力・バルブタイミング)で駆動しても渦輪生成の成否が確率的である問題が発見されていたが,その一因が,圧力源から小開口へのチューブ分岐による流量のばらつきにあることを突き止めた.
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