研究課題/領域番号 |
15H02756
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
廣瀬 明 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70199115)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ソフトコンピューティング / 合成開口レーダ / 適応的チャネル予測 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、偏波情報を扱う四元数ニューラルネットワーク(Quaternion Neural Networks: QNN)の理論を構築して、その有効性を偏波合成開口レーダ(Polarimetric Synthetic Aperture Radar: PolSAR)適応地表区分および移動体通信チャネル予測に適用してその性能向上を定量的に評価するとともに、このような電磁波・光波の波動応用エレクトロニクスを中心にQNN の工学的に利用価値の高い体系化を行うことにある。これによって、近年その重要性が急増している知的な環境センシングによる環境保全と災害軽減などの危急の課題の解決に貢献するとともに、電磁波センシング・イメージングのエレクトロニクスという汎用性が高い分野で工学利用する基盤を構築する。 本年度は、PolSAR による地表植生区分を適応的に高精度で行うQNN システムの構築を中心に進めた。ニューロン活性化関数が実軸・虚軸に依存しない、その意味で異方性をもたないことが、エンジニアリング応用には極めて重要である。今回のQNN の開拓と体系化にも、この点(四元数の3 つの虚軸に無依存)が同様に重要である。そこで本年度は、それに相応しい等方的な非線形関数の考案に取り組んだが、年度の前半で首尾よくこれを発見しポアンカレ球を含む3 次元情報空間の座標系に依存しないバックプロパゲーション(BP)学習手法を新たに考案し提案することができた。そしてその評価を行った。その結果、これまで以上に判別性能の高い適応区分を実現できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、等方的情報表現に相応しい等方的な非線形関数を考案し、ポアンカレ球を含む3 次元情報空間の座標系に依存しないバックプロパゲーション(BP)学習手法を新たに考案することを開始したが、年度前半に首尾よくこれを実現することができた。詳細を検分し、また実際にJAXAの人工衛星ALOS-2の最新データのPolSARデータを処理してその評価を行った。その結果、これまで以上に判別性能の高い適応区分を実現できることを明らかにした。これまで、そのデータが等方的な性質を持つにもかかわらず、QNNのニューロン活性化関数はシグモイド関数を各成分に作用させる方式(スプリット型の非線形関数)が世界で用いられてきた。なぜならば、適当な等方性関数が実現できなかったためである。今回、本研究では全く新しい活性化関数を考案しそのBP学習法を導出することに成功した。この成果は偏波情報の適応処理に利用可能であるばかりでなく、多くの類似物理現象や機械系処理、その他の等方的であるべき3次元情報処理に広く利用可能である。この成果は、偏波合成開口レーダ情報処理に大きな進歩をもたらしたばかりでなく、四元数ニューラルネットワークの枠組みを大きく飛躍させるものである。
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今後の研究の推進方策 |
まず、当初予定にある 移動体通信の偏波を含むチャネル予測を実用的な精度で行うQNNシステムの構築を、予定通りに進めてゆく。これに並行して、上記の計画以上の成果を活かすため当初予定に追加して引き続き、適切なメトリックを開拓して教師なし学習による手法を実現する。自己組織化マップを効果的に実現する勝者決定のための「距離」のよい定義を見出す。ポアンカレ球を描く時、ふつう四元数の虚軸ベクトルをH-V, 45-135deg, 左回り円偏波(LHC)-右回り円偏波(RHC)の3 つの偏波状態とする。しかし、これらの状態が表現する情報は、観測の基準によって決まる相対的なものである。そのため、これらに依存せず、すなわち0 経度や北極南極に依存しない最適な非線形性を考案し、システムを構築することが重要となる。これを実現する自己組織的偏波処理方式の開発を目指す。
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