本研究の目的は,機械刺激のフィードバックを利用した生体・機械融合ロボットの自律分散制御である.このロボットは,コラーゲンゲル薄膜上に培養される筋細胞群の協調的な収縮によって移動運動を行う.筋細胞はロボットのアクチュエータであると同時に,機械刺激センサの役割を果たす.ロボットは,自己の動きによって能動的に筋細胞への機械刺激をつくり出し,筋細胞の空間配置や収縮能を自己改良する.これは,細胞の機械刺激応答による自己組織化能力を直接ロボットに埋め込む新奇な技術である.身体の動きを機能的に連動させるために,筋細胞群の収縮を非線形振動の協同現象としてモデル化し自律分散的に制御する.本研究は,バイオロボットの制御技術を創出するのみならず,次世代再生医療に必要な生体素材の知能化にも貢献する. 平成28年度において明らかとなった,心筋細胞培養時の足場となるコラーゲンシートの長さが心筋細胞群の協調に関わる位相差を作り出す可能性に基づき,心筋細胞群の位相差に基づくロコモーション生成に取り組んだ.その結果,コラーゲンシートの長さを変えることで,自律分散的に,心筋細胞により駆動するロボットのロコモーションを制御できることが明らかとなった.このことは,心筋細胞といった,生体由来材料をロボットの部品として活用するための新展開のために重要な知見である.特に心筋細胞は,アクチュエータのみならず,CPU,センサの機能も併せもつことから,ソフトな生体機械融合システムを構築するための,従来とは異なる機械部品の観点からも新奇な特性を有することが期待される.
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