研究課題/領域番号 |
15H02779
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
古川 亮 広島市立大学, 情報科学研究科, 准教授 (50295838)
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研究分担者 |
田中 信治 広島大学, 大学病院, 教授 (00260670)
佐川 立昌 国立研究開発法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (30362627)
川崎 洋 鹿児島大学, 工学部, 教授 (80361393)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 内視鏡 / 能動ステレオ法 / 3次元計測 / レーザ / DOE |
研究実績の概要 |
パターン光源の校正とは、カメラに対するパターン光源の位置を推定することで、3次元計測には必須の処理である。鉗子孔にパターン光源を通す場合、鉗子孔に沿ってパターン光源が移動するため、計測中にパターン光源の位置パラメータの更新を行う自己校正手法を開発した。内視鏡カメラの視野角が大きいため、パターン光源の装置は、カメラ画像中に写る。この装置にマーカを刻印し、マーカ位置を解析することで、パターン光源の移動量を推定し、位置パラメータを推定することができ、推定したパラメータで生体組織の形状を計測できることを示した。この成果は、医療工学に関しての国際会議であるEMBC2015で発表された。さらに、特殊なパターンを利用することで、安定性の高い自己校正を実現した。具体的には、撮影画像上で容易に発見が可能なマーカを、投影パターン中に入れ、マーカのエピポーラ拘束をチェックすることで、自己校正処理を安定させる手法を開発した。 開発中のシステムの精度向上には、光源輝度の向上と、焦点深度を長くすることが重要である。このため、計測システムの性能向上には、光量低減率が10%以下でパターン生成が可能で、かつ焦点深度を非常に長くすることが可能な光学素子であるDOEを用いた光源が有望である。平成27年度には、DOEを利用した光源を利用して、生体組織の計測に対して有効であるかどうかを調べた。結果として、DOEを利用したパターン光源は、生体組織に対しても、明るく、ボケの少ないパターンを投影可能であり、形状計測が可能であることが確認された。 DOE光源と、新しく開発された3次元計測アルゴリズムを利用して、治療などで人体から摘出した生体組織の計測実験を行った。結果として、患者から摘出された生体組織の形状データが得られることが確かめられ、形状計測アルゴリズムが正常に働いていることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では、平成27年度には、「課題(a):パターン光源の自己校正を利用した形状計測手法の開発」「課題(b):高輝度、長焦点深度のパターン光源の開発」「課題(c):人体から摘出した生体組織の計測実験」を行う予定であった。このうち、課題(a)と課題(c)については、年度中に目的が達成された。 課題(b)については、内視鏡に挿入可能なDOEプロジェクタの製作について、設計内容を詳細化する過程で、必要な性能を確保するために、製作を依頼する業者を変更する必要性が生じ、この結果製作コストが増大したため、年度内に内視鏡に挿入可能なDOEプロジェクタを製作することが不可能となった。ただし、内視鏡に挿入することはできないものの、類似した性能を持つDOE光源を利用することができたため、(a)(c)を遂行することが出来た。 課題(a)については、鉗子孔に直接は挿入できないものの、代替の光源を挿入可能な補助具を内視鏡に取り付け、実験が完了した。結果として、校正儀を利用せずに、パターン投光器のカメラによる見えと、計測対象に投影されたパターンそのものから、計測に十分な精度でのパラメータ校正が行われたことが確認できた。 また、課題(b)についても、生体組織にDOE光源をあてた場合の計測画像を得ることができ、明るく、ボケの少ないパターンが投影されることを確認することができ、DOE光源が生体組織の計測に有効であることを確認できた。 以上の状況をまとめると、課題(b)について、鉗子孔に挿入可能なDOE光源の製作が未了であるという遅れがあるものの、全体としては研究目標の多くが達成された。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況で述べたとおり、内視鏡に挿入可能なDOEプロジェクタについては、製作コスト増大により平成27年度内には製作できなかった。このため、平成27年度予算から調整金を残し、平成28年度予算と合わせて、製作費にあてる予定である。これは、予算の合算を伴うことから、繰り越し金とすることはできなかった。このため、調整金の申請を6月頃行う予定である。 また、平成28年度には、複数の計測結果の統合による広範囲かつ高精度の形状情報の獲得を行うシステムを開発する。このためには、形状同士の位置変化を推定する必要がある。このため、パターン光源について、高速で明滅させながら連続撮影をすることで、「通常の内視鏡画像」と、「パターンが投影された内視鏡画像」を撮影し、通常の内視鏡画像中の特徴点、形状復元による3次元情報の双方を利用して形状間のマッチングを行う。 また、生体組織の鏡面反射による形状推定について検討する。生体組織にパターン光源を投影して撮影を行うと、ハイライトが観測される。ハイライトはパターンによる復元の障害となり、多くの場合データの欠損を生じるが、光源とカメラが正反射位置にある場合に観測されるため、shape from specularityによって、表面の法線ベクトルを求めることができる可能性がある。 また、生体組織の表面下散乱のシミュレートによる形状推定について開発を行う。人の消化管の生体組織は、半透明物質であるため、パターンがぼやけて観測され、誤差の原因となる。これについて、表面下散乱を含めた「見え」をシミュレートし、それが観測結果と一致するように形状データを修正する手法を開発する。 さらに、システム全体の計測の安全性、精度及び安定度が十分に高く、人に対する実験を行うだけの価値があると判断されたら、実際に人体の消化管に3次元内視鏡を挿入し、形状計測実験を行う。
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