研究課題/領域番号 |
15H02802
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
神田 穣太 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 教授 (60202032)
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研究分担者 |
橋濱 史典 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 助教 (80535807)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 海洋科学 / 海洋生態 / 亜熱帯海域 / リン / 気候変動 / 生元素循環 |
研究実績の概要 |
亜熱帯海域表層の生元素循環をめぐる最大の問題は、二酸化炭素収支から示されている有機物の季節的生産サイクルに対して、それに見合うリンの供給が確認されていないことである。本研究では、天然放射性リン同位体32-Pと33-Pをトレーサーとして用いたリン循環解析と高感度分析による低濃度リンの動態解析とを組み合わせて、亜熱帯海域表層におけるリン供給過程を明らかにしようとするものである。 平成27年度は、海水中の粒子状リン(PP)および全溶存リン(TDP)の放射能測定のためのリン捕集法の検討を中心に行った。リン捕集には、当初計画の現場係留型大量ろ過装置の代替として安価な揚水ポンプを用いた大量ろ過装置を用いた。本装置を東京海洋大学練習船「青鷹丸」と「神鷹丸」に設置し、相模湾および西部北太平洋亜熱帯域において試験運用した。現場海域において、10 m、50 m、100 m長のホースを用いて3 深度から同時に海水を汲み上げることに成功した。汲み上げた海水は、最初に、孔径10 µm と0.5 µmのポリプロピレンワインドカートリッジフィルター(ADVANTEC)に通過させ、サイズ別PP試料を採取した。次に、水酸化鉄(III)を吸着させた孔径5 µmのポリプロピレンワインドカートリッジフィルターにろ過海水を通過させ、TDP試料を採取した。3.58~9.52時間かけて810~6370 Lの海水をろ過することができ、その間フィルターが詰まることはなかった。相模湾の観測における水酸化鉄(III)吸着フィルターによる溶存無機態リン(DIP)および溶存有機態リン(DOP)の回収率を調べたところ、DIPおよびDOPの平均回収率は、それぞれ70.4±15.4%および45.4±11.6%であった。これらの回収率は先行研究と同程度であり、本ろ過装置でも放射能測定に供する溶存リン試料を採取可能であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、海水中の粒子状リン(PP)および全溶存リン(TDP)の32-Pおよび33-P測定法の確立が主目的であった。この目的の根幹である試料採取に関して、揚水ポンプを用いた大量ろ過装置を設計し、現場海域において試験運用することに成功した。現場海域で得られた試料は、放射性リン測定のために、灰化、モリブデン酸アンモニウム沈殿、マグネシウムアンモニウム沈殿、イオン交換処理を行うが、これらの複雑な処理過程について先行研究を参考に滞りなく進んでいる。また、超低バックグラウンド液体シンチレーションカウンターの校正や検出限界等の確認も併せて進行中である。さらに、高感度分析による低濃度リンの動態解析について、西部北太平洋亜熱帯域において採水観測を実施し、試料を得ている。以上より、当初の計画通り、本研究は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
海水中の粒子状リン(PP)および全溶存リン(TDP)に加え、生物的に易分解性の溶存ヌクレオチドリンの32-P、33-P測定法を確立し、それらを現場観測に適用することで亜熱帯海域のリン循環過程に関する解析を進める。先行研究に準拠して、海水中の溶存ヌクレオチドリン試料採取、試料調製、放射能測定の検討を行う。東京海洋大学練習船や海洋研究開発機構学術研究船を用いて現場海域で試料を採取して放射能測定を試験実施することで方法を確立する。溶存ヌクレオチドリンの試料採取は、PPおよびTDP捕集のために確立した揚水ポンプ式大量ろ過装置に活性炭カラムを組み込んで行う。放射能測定のための試料調製については、活性炭カラムからのリン抽出と回収に関して先行研究を参考にして検討する。超低バックグラウンド液体シンチレーションカウンターを用いた放射能測定については、引き続き校正、検出限界の確認等を行い、各形態リンの放射能測定法の確立を目指す。また、高感度分析による低濃度リンの動態解析について、引き続き試料採取および分析を進めて、亜熱帯海域におけるリン環境の把握を行う。
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