研究課題/領域番号 |
15H02805
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
藤嶽 暢英 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (50243332)
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研究分担者 |
内田 雅己 国立極地研究所, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (70370096)
近藤 美由紀 国立研究開発法人国立環境研究所, その他部局等, 研究員 (30467211)
杉山 裕子 岡山理科大学, 理学部, 准教授 (40305694)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 炭素循環 / 溶存有機物 / 炭素ストック / 炭素固定 / 炭素フロー |
研究実績の概要 |
溶存有機炭素(DOC)は陸域生態系の炭素循環プロセスの要であり,気候変動や温暖化と密接に関係する成分である。このため,モニタリング研究は世界各地で盛んに行われているが,その特性解析にはUV・蛍光・FTICR-MS分析などの特定成分をターゲットにした解析法が適用されているに過ぎない。しかし,特殊なパルスシーケンス(SPR-W5-WATERGATE)による1H NMR分析が利用できれば,希薄なDOCでも分子構造レベルでの特性解析が可能となる。本研究は,モニタリングレベルでの活用は困難とされてきたNMR分析法を主軸に従来法も併用して,気候変動や温暖化の影響が顕著である高緯度地域の湿地生態系を対象に,土壌―河川―沿岸海域にまたがるDOCの変遷プロセスを分子レベルで解明し,加えて,新たな炭素動態解析法の活用推進を提唱することを目的としている。 本年度実施した研究成果は以下の通りである。 1) 濃度調整したDOC試料水をSPR-W5-WATERGATE法による1H NMR分析に供した結果,高沸点溶媒濃縮機による濃縮によって,微量かつ高感度な測定が可能であることが明らかになった。 2) ノルウェー国北極圏沿岸湿地にて融雪期である6月4週目から8月3週目にかけて,ピート試料ならびに水試料の採取をおこない,DOC量と難分解性DOC量を測定した。現地に設置した連続流量計のデータを加味して,湿地帯から海域に流出するDOC総量を概算した。その結果,DOCの流出量は生物呼吸量やバイオマス固定量と遜色ないレベルで重要なマスであることが明らかになった。さらに,水試料中の50%近くが難分解性DOC量であることがわかった。 3)上記の現場でDEAEセファロースによる難分解性DOCの分離濃縮をおこない,精製・粉末化した。試料を13C NMRに供し,現在は分子レベルでの帰属解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の要のひとつである高緯度北極地域における試料の採取、現地調査、モニタリング研究については、湿地帯から海域に流出するDOC総量を概算した結果から,DOCの流出量は生物呼吸量やバイオマス固定量と遜色ないレベルで重要なマスであることが明らかになった。さらに,水試料中の50%近くが難分解性DOC量であることがわかった。こうした成果に加えて貴重な水およびピートサンプルを研究期間中使用するに足る十分量を持ち帰ることができたこと、現地に設置したDEAEセファロースによる難分解性DOCの分離濃縮・回収操作も遅滞なく予定した試料を持ち帰ることができた。これらの点では予想以上成果が得られた状況である。 一方、本研究のもう一つの要である特殊パルスシーケンスを用いた1H NMRの最適化については保有機器であるNMR分析装置の不具合発生のために進捗状況は予定より遅れている。しかし、研究協力者の協力によって、濃度別の試料測定、濃縮操作前後による変質の有無、などの条件検討はほぼ終了し、NMR装置の修理も完了したため、今後、遅滞なく成果が出ると見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の特徴のひとつである特殊パルスシーケンスを用いた1H NMRの最適化については保有機器であるNMRの不具合発生のために進捗状況は遅れ気味の状態である。しかしNMRの不具合は年度末に解消された。また、もう一方の期待される成果である北極圏沿岸湿地における現場調査・試料採取では予定以上の成果が得られている。 したがって、大幅な研究計画の変更はせず、前年度に極地から採取した試料を用いて特殊パルスシーケンスを用いた1H NMRの最適化を実施し、DEAEセファロースで分離濃縮した難分解性DOCのの特殊パルス1H NMR,13C NMRに供し,1H と13C NMRデータの相関の成立確認することで,1Hで見られるシグナルの分子レベルでの帰属保証をおこなうことを中心に計画を推進する。
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