研究課題/領域番号 |
15H02811
|
研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
財前 祐二 気象庁気象研究所, 予報研究部, 室長 (70354496)
|
研究分担者 |
梶野 瑞王 気象庁気象研究所, 環境・応用気象研究部, 主任研究官 (00447939)
北 和之 茨城大学, 理学部, 教授 (30221914)
田尻 拓也 気象庁気象研究所, 予報研究部, 主任研究官 (40414510)
足立 光司 気象庁気象研究所, 環境・応用気象研究部, 主任研究官 (90630814)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | エアロゾル / 雲凝縮結核 / 微粒子 / 有機物 / 電子顕微鏡 / 吸湿特性 / エアロゾルモデル |
研究実績の概要 |
H27年度冬季に実施した観測結果をEDXマッピング等を用いて解析し、約100nmを境として粒子形態や混合状態が大きく異なっていること、エアロゾルのエージングによって、吸湿特性のばらつきが小さくなり、0.2-0.3程度の値に収束する傾向があることなどの知見が得られた。この結果は今後、エアロゾルの多様性のモデル化に利用される。H28年度冬季の観測では、特にナノSMPSを用いた測定を実施し、2nm以下の超微粒子モードからの成長事例が観測された。超微粒子は約2nmから2-3時間で7nmまで成長し、さらに2-3時間で10nmまで成長した。超微粒子モードの出現時の粒径が4-6nmであるケースも多く観測された。 サーモデニューダー(加熱管)を用いて、黒色炭素エアロゾルの被覆物質を除去する温度流量条件を調べた結果、従来よく用いられてきた300℃加熱では、付着物質の除去は完全でなく、450℃以上で付着物資の減少が起こるが、さらに高温での実験が必要であることがわかり、今後の測定において精度の向上が期待される。また、電子顕微鏡下で、個別エアロゾルの加熱特性を評価する方法や、個別エアロゾルの形態変化から粘性を評価する方法を開発した。さらに、電子線エネルギー損失法で価数を評価することにより、個別エアロゾルの起源を分析する手法を開発した。 エアロゾルの新粒子生成と凝縮、凝集成長を定式化した動力学モジュールをLarge Eddy Simulationモデル(SCALE)に実装し、これを用いてWarm bubble理想実験下で、新粒子生成の不確定性が雲微物理降水過程に与える影響について評価した。その結果、新粒子生成が非常に活発な場合でも、凝縮ガスを奪い合い成長が抑制されるためCCN濃度に大きな違いは生じず、積算降水量、降水の開始時刻、ピーク降水強度への影響は小さいことが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
5年計画の第2年度であった。前年度の冬季に実施した観測データを電顕分析と合わせて解析し、エアロゾルの発生、成長過程における混合状態や吸湿特性の変化について多くの知見が得られた。特にEC/OCがエアロゾル粒子の吸湿特性に大きな影響を与えていることが示唆された。H28年冬季の集中観測も予定通り実施し、各種物理量のモニタリングデータや電子顕微鏡用のサンプルが得られた。この観測においては、新粒子生成で新たな知見が得られた。 サイズ分布やその他の物理特性の測定、超微粒子の採取方法に関しては、キャリブレーションを追加で行い、データの精度向上に努めた。特に電顕での有機物粒子の分析方法などに関して、技術的進歩があった。加熱管(サーモデニューダ)による混合状態調査に関しては、電子顕微鏡による分析で、加熱温度が不足であることが示唆され、今後の測定に生かされる。 数値シミュレーションでは、新粒子生成と凝縮・凝集成長を表現するモジュールを実装したモデルが開発された。 以上のように、順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は、主に冬季につくばでの、2次エアロゾルの生成とその後の成長における組成・混合状態の変化について、観測、電子顕微鏡分析と詳細モデルを組み合わせた解明を目指すものである。これまでの2年間で、各種測定器の整備、性能試験、分析技術の開発を行うとともに、冬季に集中観測を実施した。 今後も、冬季を中心に、関東にて集中観測や分析を実施する。SMPS、APSによるサイズ分布の連続観測に加えて、VTDMAを導入し、粒子の成長に伴って、揮発特性の変化やBC/OCの混合状態を調査する。 また、電子顕微鏡により、加熱しながらの観察を行う。また、これまでの予備的な観測の結果、粒子の成長において、有機物の凝縮が重要な役割を果たしていることが示唆されたので、今後も、特にEELSなどを用いて有機物に着目した分析を行う。 モデルについては、基本的なコーディングと動作試験は終わったので、今後、観測との比較実験を行いながら性能を確認し、計画後半には、観測で得られた知見を導入して、観測結果の再現実験を行う。
|