研究実績の概要 |
紫外線のゲノム毒性に対する皮膚組織レベルの防衛応答である変異誘発抑制(mutation induction suppression, MIS)応答の制御機構を解明するため、抗酸化ストレス応答を制御しているKEAP1-NRF2系に着目し、当初MIS応答時にはこの系が不活性化されて活性酸素(ROS)産生が増大しアポトーシスが誘導されるというモデルを立て解析を行った。しかし昨年度の研究でこのモデルでは十分にMIS応答を説明できないことが判明し、これまでの仮説を見直すことにした。新たな機構モデルを構築するためMIS応答のトランスクリプトーム解析を行うことにした。実際にはUVB照射後のMIS応答時の遺伝子発現解析をRNA-seq法を用いて行い、MIS誘導条件下で変動する因子を詳細に解析・検索した。その結果、紫外線により照射直後は皮膚表皮で多くの遺伝子の発現抑制が認められ、KEAP1-NRF2系も発現が抑制された。しかしMIS応答と平行してアポトーシス発動に関わる遺伝子群は強く誘導されることを確認し、また照射後3日目には組織回復に関係すると思われる細胞増殖関連遺伝子群の誘導が認められ、我々のこれまでのアポトーシスとハイパープラシアに基づくMIS応答の機構モデルを裏付けることができた。KEAP1-NRF2系はむしろアポトーシス後のこの組織回復過程での細胞増殖と平行して活性化し、細胞増殖に伴う炎症の発生を抑制していることを示唆するデータが得られ、紫外線傷害後の皮膚組織の回復過程におけるKEAP1-NRF2系の重要性が見えてきた。またこの解析と平行してMIS応答誘導に必要なDNA損傷量の絶対定量も行い、誘導に必要なシクロブタン型ピリミジンダイマー及び6-4型光産物の最少量を明らかにし、同時にこれらのDNA損傷の分子あたりの変異原性も評価できた。
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