研究課題
染色体転座は最も重篤なゲノム不安定化の一つであるが、その作用機序は未だ多くが不明である。転座は異なる染色体上に生じた二つのDNA二本鎖切断(DSB)が連結することにより生じる。転座の過程は、1)DSB末端の削り込み、2)二つのDSB末端の探索と会合、3)連結、からなる。本研究では染色体転座研究の中でも最も未解明な「DSB末端の探索と会合」に着目する。申請者は核内における広大な空間から二つのDSBが引き合い会合するためには、DSB近傍における損傷シグナルに伴った能動的クロマチン変動が必要であるという仮説を立てた。本研究では仮説証明のため、部位特異的DSBを導入した新規転座アッセイ系を開発し、DSB近傍損傷シグナル及びクロマチン構造を人為的に操作することで、二つのDSB間の相互干渉が転座に及ぼす影響を明らかにする。本年度では、転座アッセイ系の確立を目指した。Tom Misteli博士らより供与されたLacO-I-SceI-LacO及びTetO-I-SceI-TetOベクターを元にLacO-I-SceI-TetOベクターを作成し、U2OS細胞に導入した。LacR-EGFP及びTetR-mCherryを細胞内で発現することでスクリーニングを行い、LacO-I-SceI-TetOリピートを有するStable株を樹立した。4OHT(タモキシフェン誘導体)によって発現誘導可能なI-SceIベクターを作成し、上記細胞株に導入してスクリーニングを行い、4OHTを培地に添加することでLacOとTetOリピート配列の間に特異的にDSBを作成することができる細胞株を得ることができた。
2: おおむね順調に進展している
本研究はTom Misteliらの論文中で用いられたアッセイを発展させた新規転座アッセイ系を必要とするため、まずアッセイ系の確立を目標とした。Tom Misteliらより供与されたLacO-I-SceI-LacO及びTetO-I-SceI-TetOベクターを元にLacO-I-SceI-TetOベクターを作成し、高効率の培養細胞遺伝子導入システムNeon Transfection Systemにより、U2OS細胞に導入した。LacR-EGFP及びTetR-mCherryを細胞内で発現することでスクリーニングを行い、LacO-I-SceI-TetOリピートを有するStable株を樹立した。4OHT(タモキシフェン誘導体)によって発現誘導可能なI-SceIベクターを作成し、上記細胞株にに導入してスクリーニングを行い、4OHTを培地に添加することでLacOとTetOリピート配列の間に特異的にDSBを作成することができる細胞株を得ることができた。以上の結果から、初年度の目標であるアッセイ系の確立はほぼ達成できたと考えられる。よって、本研究課題の現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると思われる。
昨年度に樹立した転座アッセイ用の細胞株を用い、4OHTによりI-SceIを発現誘導し、72時間後にDNAを回収しLacO-TetO間をまたぐプライマーを用いたリアルタイムPCRにより転座効率を確認する。本研究では外来性LacRまたはTetR-53BP1を発現させるため、内在性53BP1のDSB部位への集積を抑制しなければならない。そのため53BP1のDSB部位への集積を最も効果的に抑制することができるRNF8を一過性にノックダウンする。RNF8による内在性53BP1が消失することを確認したうえで、外来性LacR-53BP1及びTetR-53BP1を発現させDSB部位への集積を開講免疫染色により確認する。RNF8が53BP1のDSB部位への集積以外の役割を担っている可能性も想定し、内在性53BP1をノックダウンし、siRNA耐性LacR-53BP1及びTetR-53BP1を用いた実験系も進行させる。本年度は以上の実験系を確立を第一目標とする。その後、LacR-53BP1及びTetR-53BP1の発現の有無で転座頻度をリアルタイムPCRにより測定し、53BP1のDSB部位への集積が染色体転座の効率に影響を与えているかどうかを確認する。また、53BP1の各ドメインに対して変異体を作成し、mCherry-野生型53BP1及びEGFP-変異型53BP1を発現させた細胞に対しても転座頻度を測定し、一方のDSB末端が正常な53BP1シグナルを有する場合においても、転座のパートナーとなるもう片方のDSB末端からのシグナルが必要となるのかを明らかにする。
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Scientific Reports
巻: 6 ページ: -
10.1038/srep22275