染色体転座は最も重篤なゲノム不安定化の一つであるが、その作用機序は未だ多くが不明である。転座は異なる染色体上に生じた二つのDNA二本鎖切断(DSB)が連結することにより生じる。本研究では部位特異的DSBを導入した新規転座アッセイ系を開発し、DSB近傍損傷シグナル及びクロマチン構造を人為的に操作することで二つのDSB間の相互干渉が転座に及ぼす影響を明らかにすることを最終的な目標とした。 新規転座アッセイ系作製のため、まずLacO-I-SceI-TetO細胞株を樹立した。4OHTの倍地添加による特異的DSB生成を確認後、リアルタイムPCRによる転座頻度の測定を試みたが、様々な条件検討の結果、LacO-I-SceI-TetO配列は多数のリピート配列を有していることからリアルタイムPCRによる定量的な解析は困難であることが明らかとなった。そこで、主に蛍光顕微鏡を用いた解析も平行して行い、長崎大学・山内基弘博士及び群馬大学・柴田淳史博士らとの共同研究により、mCherry-53BP1を発現するヒト正常繊維芽細胞(BJ hTERT)では放射線誘発53BP1がペアリングすることを見出した。 一方で、重粒子線ではX線照射に比べて染色体転座が高い頻度で引き起こされることが以前より知られていたため、重粒子線照射後の転座発生メカニズムの解析を試みた。重粒子線照射細胞の染色体領域とDSB部位をそれぞれFISHと蛍光抗体法により可視化して解析を行ったところ、重粒子線照射細胞では、複数の染色体にまたがった形状の特徴的なDNA損傷形態が観察されることが明らかになった。さらに解析を行い、複数の染色体にまたがる形のDNA損傷の中に、染色体転座の初期段階であるDNA末端の削りこみを検出することができた。
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