研究課題
放射線被ばくにより染色体異常がどのようなしくみで形成されるか、という本質的な疑問については、未だに未解明のままである。放射線被ばくによる染色体異常は、ゲノム修復システムが損傷ゲノムの位置情報、すなわち「場」の認識に失敗することにより形成される。修復に関連する蛋白質は損傷部位集積し、損傷ゲノムを含んだ放射線誘発核内ドメインというゲノム修復の「場」を構築する。染色体異常形成のしくみを解明するためには、ゲノム修復の「場」である放射線誘発核内ドメインの詳細な構造構築の解析が必須である。これは、近年開発された超微細構造解析技術や染色体DNA核内配置の網羅的解析技術を用いることで初めて可能になる。本研究ではこれらの最新の技術を用いて放射線誘発核内ドメインの構造構築を詳細に解析し、「ゲノム修復の失敗しやすさ」を組み入れた染色体異常形成の新しいモデル構築を目指した。そこで、放射線被ばくによる染色体異常形成の仕組みを明らかにするために超解像顕微鏡を用いた放射線誘発核内ドメインの動的構造解析を行ったところ、放射線照射後の細胞では、代表的な放射線誘発核内ドメインとして知られるRAD51フォーカスの「形が変わること」、損傷ゲノムの一部はRAD51がもともと集積していた場所に移動すること、などを明らかにした。生化学的アプローチでは、損傷シグナル因子ATMキナーゼによるクロマチン再構成因子複合体の構成因子の一部をリン酸化することで、損傷クロマチンへの適切なRAD51の結合が調節されていることを明らかにした。これらの知見の一部については、現在論文投稿中である。一方、RAD51タンパク質複合体に含まれる細胞核構造構築に関連する因子が、RAD51の機能制御を介して染色体異常形成の抑制に関与していることを明らかにし、論文発表している。
2: おおむね順調に進展している
タンパク質複合体解析から、染色体異常形成に関与する新しい因子についての論文を発表することができた。当初計画していた超解像顕微鏡を用いた細胞生物学的解析については、2種類の顕微鏡から得られたデータの比較検討を行い、解析結果の検証を慎重に進め、自信を持って論文にできるデータを得ることができた。生化学的解析についても、興味深い知見が得られており、論文投稿準備中である。これらの研究は非常に順調に進んでおり、興味深い知見多くの知見が得られている。一方、、次世代シーケンサーを用いることで、特定の染色体DNA領域の位置関係を分子細胞遺伝学的に解析する研究については、タンパク質複合体解析や超解像顕微鏡解析などを優先して行ったため、現在はまだ試料の調整を行っているところである。
今後は、ゲノム修復因子の染色体異常形成への関与を検討するために、RAD51タンパク質複合体の今までに検討していない構成因子について薬剤やsiRNAを用いた機能抑制を行い、染色体異常形成への影響や放射線誘発核内ドメインの構造構築と染色体構造以上の形成についての関連を検討する。さらに、正常ヒト培養細胞について、放射線誘発核内ドメインに結合する染色体DNA領域をHiC技術とγH2AXやRAD51などの抗体を用いたクロマチン免疫沈降法と組み合わせることにより定量的に解析する。RAD51蛋白質複合体の構成因子についてsiRNAを用いた発現抑制や阻害剤による機能抑制した細胞について、同様の解析を施行することにより、染色体構造異常の形成へのゲノム修復機構の関与について検討する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 5件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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