研究課題/領域番号 |
15H02822
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
村雲 芳樹 北里大学, 医学部, 教授 (40324438)
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研究分担者 |
櫻井 靖高 北里大学, 医学部, 助教 (50733101)
一戸 昌明 北里大学, 医学部, 講師 (80365163)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | DNA損傷 / 損傷乗り越えDNA複製 / REV7 / 紫外線誘発皮膚癌 / 遺伝子改変マウス / 悪性黒色腫 |
研究実績の概要 |
前年度供与していただいた紫外線誘発皮膚癌高発現系マウスであるPolh欠損マウスを用いて、皮膚癌を発生させるための最適な紫外線照射量と照射回数の検討を行った。紫外線照射装置は過去の報告例を参考にして独自に作成した。FVBバックグラウンドのPolh欠損マウスと野生型マウスの背中の毛を剃った後に、2 kJ/m2/day、4 kJ/m2/dayの照射量で週3回の照射を行った。その結果、Polh欠損マウスでは、両照射量共にもっとも早いもので9週で皮膚腫瘍が発生し、およそ12~16週で全例で皮膚腫瘍が発生した。野生型では2 kJ/m2/dayでは20週までに腫瘍は発生せず、4 kJ/m2/dayでは一部のマウスに皮膚のびらんと小腫瘍が発生した。今後、皮膚特異的高発現を示すRev7トランスジェニック(K14-Rev7 TG)マウスと交配させた場合、さらに腫瘍発生が早くなる可能性があるため、もう少し照射量・照射回数を減らして腫瘍発生が遅くなるようなプロトコールを作成することとした。その間に、FVBバックグラウンドのRev7欠損マウスは胎生致死になることが判明したため、今後Rev7の皮膚発癌への関与の検討は、Polh欠損マウスとK14-Rev7 TGマウスの仔を用いて解析を続けることとした。 皮膚癌の臨床検体を用いた解析では、悪性黒色腫においてREV7の発現が高かったため、REV7発現とKi-67陽性率、悪性黒色腫の病変の厚さについて検討した。その結果、REV7発現が高い腫瘍はKi-67陽性率が有意に高く、REV7発現は腫瘍増殖に関係している可能性が示唆された。また、REV7高発現腫瘍は病変が厚い傾向があったが有意差は認められなかった。現在、ヒト悪性黒色腫細胞株を用いてREV7ノックダウン細胞を作製中であり、今後REV7発現と細胞増殖能、浸潤能の関連についてin vitroで検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、今年度中には紫外線照射のプロトコールを作製し、二重遺伝子改変マウスを用いた紫外線誘発皮膚癌の実験を始める予定であったが、紫外線照射プロトコールの検討まで行い、紫外線誘発皮膚癌の実験を始める所まで行えなかった点がやや遅れている点の一つである。その理由として、紫外線誘発皮膚癌のコントロールとして使用するPolh欠損マウスのバックグラウンド系統の変更に時間がかかった点が挙げられる。前年度供与していただいたPolh欠損マウスはC57BL/6J系統であったが、Rev7遺伝子改変マウスの系統FVB/NJclに合わせるために、FVB/NJclへのバッククロスを繰り返してバックグラウンドの変更を行った。その際に、妊娠、出産に時間がかかり、FVB/NJclバックグラウンドのPolh欠損マウス樹立までに予想外の時間を要したことが、研究がやや遅れている大きな原因となっている。 また、当初の予定では、今年度中にヒト悪性黒色腫細胞を用いたREV7ノックダウン細胞株を樹立し、その表現型を解析する予定であったが、現在細胞株の樹立を行っているところであり、細胞株を用いた実験がやや遅れている。その理由として、臨床検体を用いた研究と培養細胞を用いた研究を行っていた研究協力者の一人が、体調不良のために研究の遂行が困難になったことが挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
1)皮膚特異的高発現を示すRev7トランスジェニック(K14-Rev7 TG)マウスとPolh欠損マウスを交配させた二重遺伝子改変マウス(Rev7Tg/Polh-/-、Rev7+/Polh-/- )に、確立したプロトコールを用いて紫外線照射を行い、皮膚癌を誘発する。そして、Rev7高発現と皮膚癌の発生頻度との関連を明らかにする。発生した皮膚癌とその周囲の組織切片を作製し、組織学的に病理像、悪性度、分化度、浸潤様式などの検討を行う。リン酸化H2AX、酸化損傷やチミンダイマーに対する特異抗体を用いた免役染色により、REV7発現とDNA損傷発生の関連を明らかにし、Ki-67抗体による免役染色によりREV7発現と細胞増殖との関連を明らかにする。さらに、ゲノム内の突然変異発生におけるREV7発現の影響を解析するために、抗p53抗体を用いた免役染色によりp53陽性率を検討し、また、発生した腫瘍より抽出したDNAを用いてTP53遺伝子のシークエンスを行い、REV7の発現と突然変異発生頻度との関連を明らかにする。 2)樹立した二重遺伝子改変マウスの表皮ケラチノサイト由来培養細胞株を樹立し、REV7発現の違いによる突然変異導入率への影響をin vitroにて解析する。細胞株に紫外線を照射し、ヒポキサンチンリボシル転移酵素(HPRT)遺伝子変異を利用した突然変異発生率の解析を行い、REV7発現の影響を解析する。 3)ヒト悪性黒色腫のノックダウン細胞を樹立し、細胞増殖能、浸潤能、抗癌剤や紫外線照射によるDNA損傷に対する感受性を解析し、REV7発現との関連を明らかにする。そして、臨床検体を用いた解析の結果と照らし合わせて、ヒト皮膚癌におけるREV7発現の意義を明らかにする。
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