研究課題
放射線によりDNA分子上の局所に損傷が集中する多重損傷(クラスター損傷)に対する細胞内における修復動態と、DNA損傷がどのような物理化学的な局在化機構を経てクラスター化するのかを明らかにすることを目的として、研究を実施した。代表的な成果は、まず実際に放射線照射した蛍光タンパク質(EGFP)を有するDNAを非照射の細胞中に導入し、EGPFの蛍光強度の時間変化としてDNA修復を評価する過去に例のない新しいアッセイ方法を確立したことである。EGFPプラスミドを試料とし、これにX線照射した後に細胞導入した場合、細胞の蛍光強度が時間とともに増大し、その傾き(EGFP発現速度)は線量依存的に小さくなった。1.2kGyを照射した場合、GFP発現速度はコントロールのおよそ40%となった。ニッキング酵素により人工的にDNAに1本鎖切断(SSB)を1ヵ所入れたプラスミドの場合、コントロールと比べEGFP発現速度は僅か10%程度までしか低下しなかったことから、酵素により導入された単純な末端構造のSSBに比べ、X線照射により難修復性のDNA損傷が生じた可能性が示された。以上の結果から、本手法により難修復性のDNA損傷を検出が可能であり、今後DNA損傷の修復動態に関する研究分野において有力な新手法となることが期待される。一方、クラスターを構成する塩基損傷の誘発過程を明らかにするため、放射線トラックエンドで生じる多数の低速の2次電子の振舞いを、動的モンテカルロ法を用いてシミュレートした。その結果、電子が減速し完全に熱化する直前に水和前電子となり、初期イオン化位置から6塩基対以上離れたところにも塩基損傷が誘発されることを明らかにした。このように初期イオン化位置から離れて生じる塩基損傷は、細胞内の塩基除去修復の過程で2本鎖切断に変換され得るため、細胞致死等の原因となるクラスター損傷であることが予想される。
29年度が最終年度であるため、記入しない。
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