本年度においては、研究計画に従い以下の研究を実施した。 ビスフェノールAのハロゲン化がHeLa細胞に対して細胞増殖活性、細胞毒性を変化させることを昨年までに見いだした。従来、ビスフェノールAは核内受容体を介した内分泌攪乱作用に注目がなされてきたが、今回、ハロゲン化ビスフェノールの細胞毒性を評価し、その細胞死の形態観察、ハロゲンに特有な細胞毒性への影響を精査した。MTTアッセイにおいて、ハロゲン化ビスフェノールは、未修飾のビスフェノールに比べ強い細胞毒性を示すことが判明した。また、ハロゲンの種類や個数により異なる細胞毒性を示した。臭素2置換体が最も強い細胞毒性を示したが、細胞死の形態判別を行ったところ、ヨウ素2置換体にアポトーシスではなく、ネクローシスによる細胞死を誘導することが見いだされた。 さらに、ドッキング計算による核内受容体を介した内分泌攪乱物質のリスク評価を行うため、その基礎となる鋳型構造に関する検討を実施した。この研究では、ドッキング計算において複数の異なる受容体構造を統計的に使うことの重要性を明らかとし、受容体の転写活性の推定が可能となることを示した。 一方で、核内受容体ぺルオキシソーム増殖剤応答性受容体γ型(PPARγ)について、ハロゲン化ビスフェノールの結合性を調査したところ、ハロゲン化ビスフェノールはハロゲンの導入数が多いアナログほど、また、その原子サイズが大きいアナログほど結合性上昇への寄与が大きいことが明らかとなった。それらの転写活性強度は、既知のアゴニストであるロシグリタゾンの30-40%程度であった。 さらに、ハロゲン化ビスフェノールと核内受容体の結合構造を明らかとするため、ハロゲン化ビスフェノールと核内受容体ERRγの複合体構造をX線結晶構造解析により明らかとしハロゲンの受容体結合構造を示すなど、ハロゲン化ビスフェノールのリスク評価に資する知見を得た。
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