研究実績の概要 |
今年度は先ず、TiNPのリスクアセスメントを目的として、投与量を変えてLOAEL又はNOAELの算出を試みた。TiNPの結晶型混合物P25(アナターゼ型:ルチル型=8:2)をC57BL/6Jマウスに4回(1回/週)静脈内投与し、投与3日後の精巣機能を調べた。P25の投与量は4点(0.1, 1, 2, 10 mg/kg)とした。その結果、精子数は殆ど変化せず、しかし精子運動能は1 mg/kg群から投与量依存的に低下し、10 mg/kg群では対照群の約45%であった。この時、0.1 mg/kg投与群による精子運動能は10 mg/kg群よりも低下し、実験系を通しての投与量依存性を得ることはできなかった。これは凝集性の違いなどのナノ粒子独自の反応(生体影響)である可能性も考えられる。従って、今回の実験系からは0.1 mg/kgがP25のLOAELと考えられるが、単純に判定することは慎重を要する(1)。なおP25の慢性曝露により肝障害が報告されていることから、本実験系でも肝障害を幾つかの指標(ALT, AST等)を用いて検討したが対照群との違いは認められなかった。このことから我々は、精巣はTiNPに対して感受性の高い臓器ではないかと考えている(1)。精巣機能に関わるホルモン系(テストステロン、GnRH、FSH、LH)には変動が認められず、ホルモンを介した障害ではない可能性がある。また精子形成関連遺伝子の解析を行い、中途段階ではあるが、Sirt1及びPHGPxの低下が確認されていることから、TiNPによる精巣機能障害の一因である可能性もあり、解析を急いでいる。なお、アナターゼ型・ルチル型それぞれを単独投与した場合、ルチル型では精子運動能低下が認められなかったことから、TiNPの精巣機能障害はアナターゼ型に起因する可能性がある。 (1) Miura et al (2017), J Toxicol Sci, 42, 359-366
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