研究課題/領域番号 |
15H02833
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研究機関 | 国立研究開発法人森林総合研究所 |
研究代表者 |
田中 信行 国立研究開発法人森林総合研究所, 企画部, 研究専門員 (80353762)
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研究分担者 |
比嘉 基紀 高知大学, 教育研究部自然科学系理学部門, 助教 (60709385)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 分布予測モデル / 生態系保全 / モニタリング / 気候温暖化 / 潜在生育域 / 植物生態学 / 適応策 / 脆弱性 |
研究実績の概要 |
本研究は、東アジアにおける重要な植物種の分布予測モデルを構築することにより、分布制限条件の解明、過去・現在・将来における種の潜在生育域の予測を通して、生態系保全上重要な地域を特定することを目的とする。本年度は、中国雲南省の高山に分布する寒温帯針葉樹林について、雲南大学と共同で解析を行い、次のような成果を得た。 雲南省の寒温帯針葉樹林の分布への気候要因の影響を評価するために、分類樹モデルを構築し、現在と将来の気候条件における潜在生育域を予測した。将来気候条件は、2070~2099年におけるCCCma-CGCM3.1気候シナリオである。予測精度の高い分類樹モデルによると、モデル構築に用いた6つの気候変数(説明変数)のうちで最寒月最低気温(TMW)が最も影響力のある要因で、TMW<-4.05 の高標高地域が生育に適する場所(適域)であった。一方、より温暖な -1.35<TMW の地域は非生育域で、寒温帯針葉樹林に接する低標高域には温帯針広混交林が分布している。寒温帯針葉樹林の優占種であるモミ属・トウヒ属・カラマツ属の耐寒性は、温帯針広混交林優占種であるツガ属や落葉広葉樹類(カエデ属、カンバ属)や常緑広葉樹類(カシ属、マテバシイ属)より高い。冬季の寒さが温帯針広混交林の高標高域の分布を制限し、それとの種間競争の結果、寒温帯針葉樹林の分布下限が規定されると考えられる。温暖化に伴い、寒温帯針葉樹林の分布域下部は温帯針広混交林に置き換えが進行すると推定される。将来気候シナリオに基づくと、寒温帯針葉樹林の現在の潜在生育域(90,201km2)は50%(45,058km2)に減少すると予測されるが、非生育域に移行する地域が脆弱な地域で生態系保全策の優先順位の高い場所と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東アジアの生物多様性保全上重要な位置を占める中国雲南省の植生について、温暖化影響予測の成果を得た。成果にはまだ至らないが、東アジア各国の研究機関と共同研究を進めた。北京大学、ロシア科学アカデミー植物園、韓国樹木園、韓国生物資源研究所、国立台湾大学と相互訪問によるセミナーの開催、メールによる情報交換を行い、研究目標に向けて取り組んだ。このような点から、おおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本分野の研究の進展が目覚しい北京大学とは、日中共通種を対象とした研究を進める。また、現在、寒帯優占種ハイマツの全分布域を対象とした分布予測研究を共同で進めているロシア科学アカデミー植物園とは、次年度中の論文公表を目指す。この2研究機関を重点化して研究を発展させる予定である。
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